No.
16 |
展示物の名称
わが家のストラディバリ |
出展者
匿名希望の主婦 |
|
|
|
■匿名希望の主婦、47歳です。近頃わが家に、一台のボロボロになったバイオリンがやって来ました。私の実家の押入で、50数年眠っていた物です。前の所有者は京都で手に入れて、30年手元に置いたとのことです。それ以前の事は分かりません。隙間から覗くと、
[Antonius Stradivarius Cremonenas Facibat Anno1722]
と微かに読める、古ぼけた紙が貼られています。
母によれば、50数年前に近所のバイオリンの先生から、お金の入用があるので買い取ってくれないかとたのまれ、譲り受けたとのこと。確かな金額は分かりませんが、当時のお金で家が2〜3軒買える程だった、と言う話です。一時、私の姉が使用したのですがすぐ止めてしまい、そのまま押し入れに眠っていたものです。
なにかの時にバイオリンの話題になり、母が取り出して来たのを見て、表板(振動板)がしっかりしていたので、修理に出そうと言う事になりました。依頼した先は、インターネットでさがしたバイオリン製作者です。修理の内容は、糸巻きの交換、指板の削り直し、エンドピンの交換、あご当ての交換、魂柱の立て直し等、傷んでいたパーツの交換が主でした。ツァルゲンと表板、裏板の膠による接着はしっかりしていたそうです。本体に塗られていたニスはオリジナルの物で、塗り重ねはなかったそうです。
修理を引き受けてくれたバイオリン製作者の意見では、ストラディバリの1722年のモデルがすばらしいので、おそらく、後年ストラディバリの工房を引き継いだ子孫か弟子が復刻した物ではないか、と言う事でした。そういったケースもままあるそうで、またその人気ゆえに贋作も少なくないそうです。
私自身も色々な文献をひも解き調べてみましたが、日本には確かな鑑定をできる人はいないようです。最終的な方法は、本物とされている物の表面に塗られているニスと、手元にある物のニスの科学的分析の比較になります。しかしこれも、ストラディバリが残したニスを使用したか、あるいはその成分表に基づいて忠実に再現されたニスが使われたか、という二つの可能性は否定できません。
結論としては、真贋の程は不明ということです。信頼の出来る鑑定を望む場合は、ニューヨークかクレモナまで出かけなければなりません。修理の費用は大修理ではないので、たいした金額ではありませんでした。一つだけ珍しいところがありまして、裏板が楓の1枚板なのです。あまり他では見られないようなのですが…。
相性の良い弓も手に入りました。部屋中を揺るがすような響きで、そしてどこまでも澄んだ音色で、今、わが家のストラディバリは娘の腕の中にあります。今のところ彼女が醸し出す音色と、本物か偽物かどちらともつかない余韻に、私はひたっています。
いやー、とうとうやってきましたか、あのストラディバリがこの博物館に。一度ぜひ、娘さんの演奏を聴いてみたいですね。こう見えても私、クラシックパンツ……じゃなかった、クラシック音楽のファンなんです。 |
|

|
|