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1985年5月11日
◆名古屋から名鉄電車に乗り換えて、わずか30分たらず。たどり着いた有松は、不思議な静けさに包まれた町。いにしえの時間が流れる奇跡の谷間。旧東海道沿いにどこまでも続く古い家並みが、美しい景観を形作っている。
昔から、絞り染めの“有松絞り”が有名で、創業元禄年間と言う看板を下げた店もある。あの十返舎一九の「東海道中膝栗毛」では、弥次喜多の二人がここで絞り布を買ったという。
中でもひときわ偉容を誇る建物は、この井桁屋。ダイナミックな卯建といい堂々としたなまこ壁の蔵といい、時代劇のセットも真っ青の重厚さだ。間違いなく、この町を代表する景観といってもいいだろう。髷を結った番頭さんが中から出てきても、何の違和感もない。
ここはどこ、私はだれ? まるで、時間旅行者になったような気分だ。
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| ◆近付いて見れば見るほど、見応えのある卯建(うだつ)。防火上の工夫とは言いながら、立派な装飾になっている。鎧武者の兜の錣(しころ)のようにも見える。 |
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◆絞り卸商竹田家の土蔵は、実に堂々としている。分厚い扉の窓には、さらに頑丈そうな鉄格子。少々の火事や泥棒には、びくともしそうにない。商人の財力というか、執念のようなものさえ感じさせる。それにしてもスケールといいデザインといい、豪壮な建物の多い町だ。 |
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| ◆銀行の駐車場も、この町に相応しい顔をしている。これがスチール製のフェンスだったら、むろん台無し。伝統的な町の景観は、官民協力して守って欲しいものだ。 |
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◆山形屋善兵衛家の“馬留めの輪”。むかしはここに、馬をつないだのだという。荷駄が頻繁にこの町を行き来した時代の名残だが、いまは錆びたまま使われることはない。 |
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| ◆緩やかに左右にうねる旧東海道。道幅は意外に狭く、車の往来も少ない。かつては絞り染めの店々で賑わい、多くの旅人が行き交ったこの通りも、今は静かなもの。往時の面影を残す家並みだけが、延々1キロほど続いている。 |
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◆裏通りですれ違った、老婆が一人。他に誰も人影はない。ひどくゆっくりと時間が流れ、ひどくゆっくりと老婆の押す荷車の車輪が回転する。おばあさん、ここは何という名前の通りですか…?
この後、町のはずれまでぶらぶら歩き、さらにそのまま隣の駅まで歩く。着いたところは「桶狭間」。え、本当にここが…? あの織田信長が今川義元の首を上げた有名な古戦場は、いまでは駅前のきれいな公園になっていた。 |

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