町並み漫歩館トップページ 望月 時期:1987年3月22日
場所:長野県北佐久郡望月町(当時)


小諸発の千曲バスでたどり着いた、昨夕の印象が嘘のような、晴れ渡った朝の望月宿のメインストリート。黄昏の寒風の中で、昨日見たあの暗く侘びしげな町の表情は、いったい何だったのだろう…。
宿泊した旅館を出て通りに足を踏み入れると、目の前にはまったく別の風景が広がり始めた。おお、この爽快さ! 道路を渡るおばあさんの腰も、シャンと伸びている。

中山道の宿場・望月は、文化元年には本陣や脇本陣の他に、旅籠が29軒もあったという町だ。かつての面影を偲ばせるように、いまも数軒の昔風の旅籠や古い土蔵などが、通りの両側に点在している。
またここは、古代から駒の産地としても知られたところで、そういえば辺りには「牧」のついた地名が多い。
それにしても、“春風駘蕩”とはこのことか。空気もうまい。ここは寂れた中にも、どこか華やかだった頃のかけらが残る町…。
マップ

柔らかな日の当たる古い民家。
年を経た木肌の色と、連続する格子の陰が美しい。門の前で日向ぼっこする番犬も、のんびりと気持ち好さそうだ。何かの広告らしい垂れ幕が、ちょっと目障り。

「やまとや」という看板の掛かった、かつての旅籠兼問屋の真山家の建物は、いま重要文化財。
大きくはないが、端整で重厚なファサードを持っている。内部はかなり奥深そうだ。

一階より二階が張り出した出桁(でげた)造りは、宿場独特のもの。腕木に彫られた奇妙な動物のような形は、何を意味するのだろう。この辺りの古い家屋に共通するデザインだ。
二階の櫺子格子も美しい。ここは全体に、細部が凝っているのだね。

誰にも顔があるように、蔵にだって顔がある。それも、ちょっととぼけた顔…。
そう、どう見てもこれはフグだ。小さな目と口の形が、抜群の表情を見せている。

豪壮な造りの多い望月の町家だが、空き家もまた多い。二階の破れた障子の奥からは、誰かが通りを覗いているような…。
どうやら時代の非情な波が、この町にも遠慮なく押し寄せているらしい。

春霞の中に溶け込むように、どこまでも続く望月の家並み。中山道を覆ったアスファルトが、熱い飴のように白く輝く。この道は江戸から木曽路を越え、京まで続いているのだ。

振り返れば、かつての宿場の賑わいをどことなく思わせる、似たような造りの小さな家々が並んでいた。
この透視図の焦点には、いったい何があるのだろう。欠けた櫛の歯のように、ところどころ無惨に空き地になった建物の跡が痛々しい。馬鹿に規則正しく並んでいるのは、無粋な電柱ばかりだ。はたしてこの町に、美しい家並みが復活する日は来るのだろうか…。
さらば望月、再生を祈る! この後、次の宿場、茂田井に向かって中山道を西に歩き始める。陽はまだ中天に届かない。


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