◆のどかな春の陽はなかなか沈もうとはしない。東西に細長い関の町を、端から端まで30分ほど掛かってゆったりと歩く。心地よい気分だ。まるで、長い長い格子の回廊を一人散策する王様のよう。
この町を歩く楽しさのコツは、家々の持つディテールの中にある、小さな工夫を発見することかも知れない。蔵の窓に、縁台に、屋根瓦に、生活や風習の中から滲み出した、味のようなものが隠されている。それらを目で拾いながら、記憶のポケットに押し込んで行くと、とても得した気分になれる。
5時頃、電話で予約してあった宿に入る。客の姿は他にはない。この町に相応しい小ぎれいな旅籠をイメージしていたのだが、期待は見事に裏切られ…。まあ、仕方ない。食事の後、納戸のような薄暗い六畳間で一人寝転がり、かつての関宿の賑わいを想像して見るしかなかった。 |