1997年5月14日
どうしてこうも雨に祟られるのか。予報より早く、朝からぱらつき出した小雨は、まるで止みそうもない。くそぉ、昨日はあんなに好い日和だったのに…。
 朝飯を二杯食べ、宿泊した宮城県白石市の岡崎旅館を出たのは、午前9時頃のこと。親切な宿の女将さんに貰ったビニール傘が、せめてもの慰めだ。これと言って特徴のない白石の街だが、所々に城下町らしい風情を宿した古い蔵などが建っている。雨の中、ぶらぶらとそんな建物を眺めながら、復元された白石城の北側にある武家屋敷群へとやって来た。さいわい、静かな通りに人影はない。

 文庫本を二冊バッグに入れ、東北新幹線「やまびこ123号」で上野駅を発ったのは、昨日の午前10時過ぎ。2時間後には白石蔵王駅に着いていた。そこから、タクシーで市街地にある白石駅へ。とても歩いては行けない距離、と言うから仕方がない。しかし、新幹線と在来線の二つの駅が、こんなに離れているのはいったい何故なんだ。誰か教えて…?
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着いたばかりの昼下がりの白石駅。暇そうなタクシーが、のどかな東北の地方都市を感じさせる。シンボルのように立つのは、城主・片倉家の紋をあらわす釣り鐘。この後、駅前のうーめん屋で食べた冷えたモリは、やっぱり美味かった。この陽気が、翌日も続けば良かったのだが…。

降り続く雨。白石女子高から沢端川沿いにのんびり歩くと、後小路の閑静な武家屋敷通りに出る。
 川の水量は豊かで、清らかな流れには鯉の泳ぐ姿も…。川にかかる幾本もの橋は、それぞれの屋敷の玄関へとつながっている。この風景は藩政時代のものと、そう変わってはいないはずだ。どことなく心が落ち着く。

道の反対側の管理事務所で代金を払い、県指定文化財の旧小関家屋敷に入る。この街で数少ない、江戸期の姿を最もよく残した武家の住居だとか。今は手入れの行き届いた公開施設だが、雨のお陰か他に客の姿はない。こんなときは雨もいいものだ。

主屋は270年近く前の建物だという小関家。質素な土壁に茅葺きの屋根は、なかなかのグッドデザインだ。美しい庭を眺めながら、この囲炉裏を囲んで気の置けない友と酒が飲めたら、どんなに楽しかろう。うーん…!
伊達家の家臣、片倉家一万八千石の小さな城下町、白石。初代は片倉小十郎景綱といい、その昔のNHK大河ドラマ「独眼竜政宗」では、主演の渡辺謙・伊達政宗に仕える忠臣として、西郷輝彦が演じていた。
 今では、城下町らしい家並みをすっかり失ってしまった白石だが、ここ後小路の川沿いの通りだけは、往時の面影を残しているようだ。

まるで森の中のように緑溢れる庭に、立派な白壁の土蔵が立っている。そう古いものではなさそうだが、周囲の景観によくなじみ、かつての時代の雰囲気をそのまま漂わせている。さらに、静けさを際立たせる流れの音…。羨ましいほどの贅沢な時間が、いまここをゆっくりと通り過ぎて行く。それにしても、毎日あの橋を渡るこの家の居住者とは、いったいどんな人たちなのだろう。きっと和服なんかが、ビシッと似合うんだろうな。

 後小路の武家屋敷を見た後は、いよいよ白石城に登城。巨額の工事費をかけ、2年前に再建されたという天守閣は、この街のシンボルとして立派に甦った。鉄筋コンクリートではなく桧の柱を使った本格的建築だ、と管理のオヤジが胸を張ったっけ。ハハーッ。
 城の内部を見終わり外に出ると、雨は上がり始めていた。市街地に戻り、ここの名産・白石うーめんの販売店で、土産を選んで発送。あれこれ質問したせいか帰りしな、店の女の子が試食用にといろんな種類のうーめんやうどんを、ドサッと袋に入れてくれた。サービスがいいのか、個人的な親切なのか…。後者だと思いたい。


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