◆両袖を張り出しような、矢島家の見事な卯建。左右の屋根にはそれぞれ、ピンと鯱も反り返っている。豪華ではないが、どっしりと威厳に満ちた造りの建物だ。まるで雨音を形にしたような、どこまでも連なる家々の格子が美しい。かつてこの格子の奥で、どのような明かりが灯り、どのような賑やかな会話が交わされたことだろう。過ぎ去った時間は帰らない。
安物の折りたたみ傘はあまりに小さく、ショルダーバッグやカメラに遠慮なく細かな雨粒が貼り付く。それらを拭き取りながら約一時間ほど街道を歩く。アスファルトの舗道がすっかり濡れ、家々の影をくっきりと写すようになった頃、やっと大屋駅に到着。肩の荷を降ろすと、なにやら時雨の中のタイムトンネルから、現代へと帰還したような気分になった。それにしても千曲川の河原には、早くもススキの穂が揺れていたなあ…。 |