その101.ほんとは怖〜い大黒様(2005.2.15)
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◆もうアカン、引き分けだ〜! 誰もがそう思った後半ロスタイム、北朝鮮のGKがパンチで逃れたボールを福西崇史がゴール前に繋ぎ、そこにいた一人の選手がすかさず反転しながらシュート! やった〜〜、決勝ゴ〜〜ル、ありがと〜〜! そんな劇的な勝利を日本にもたらしてくれたのが、お坊ちゃまみたいなヘアスタイルに細い目の、ガンバ大阪の大黒将志じゃったね。いや〜、厳しい戦いになるとは思っておったが、これほどドキドキさせられるとはなあ。なに、何の話だ? 決まっておる、9日に行われたW杯ドイツ大会最終予選の日本対北朝鮮の試合じゃよ。しかし大黒君、あそこで本当によくゴールを決めてくれたよ。
翌日から新聞やインターネットには、どこを見ても“大黒様”の活字ばかり。「神様、仏様、大黒様!」とかなんとか、まさに一夜にして生まれたシンデレラボーイじゃね。まあ、救国の英雄といってもいいほどの大殊勲だから、当面“大黒様”のオンパレードは仕方がないとして、彼があそこで瞬時に地面に叩きつけたシュートのうまさをキミも見逃してはいかんなあ。転々とバウンドしながらゴールに向かうボールは、キーパーにとっては捕まえにくい嫌〜なボールだったはず。あれが高原直泰や柳沢敦だったら思い切り蹴り上げて、ボールはクロスバーを直撃、日本中の人間が頭を抱えていたかも知れんよ。大黒様、振りの速さもさることながら、いろんなシュートのパターンを持っていそうじゃね。
◆しかし世の中、こんなににわか“大黒様ブーム”が起きると、全国の大黒様を祀った神社やお寺にも、行く奴がけっこう出てくるんじゃないのかい。え、それって鯛を抱えて釣り竿を持った、ニコニコ愛想のいい福耳の神様だろうって? あのなあ、それは恵比寿様のこと。大黒様は本名を大黒天といってな、米俵の上で打ち出の小槌を持ってニコニコと…、う〜んやっぱり愛想のいい福耳の神様じゃな。ま、恵比寿と大黒はともに福の神として昔から信仰されており、二つがペアになった縁起物の置物なんかはいまでもよく見掛けるから、キミが間違えるのも無理はないか。 もっとも、恵比寿様が日本生まれで漁業・商売繁盛・交易の神様といわれるのに対し、この大黒様のルーツはそう簡単なものじゃあないよ。なんと、元は「マハーカーラ」というインドはヒンドゥー教起源の神様でな、 暗黒の世界で死を司る神として怖れられていたそうだから怖いじゃないの。「マハー」は「大」を意味し、「カーラ」は「暗黒」を意味するところから、直訳され「大黒」の名が付いたというからいやはやたまげたね。これが仏教に取り入れられ、帝釈天・多聞天などとともに仏法守護の神・大黒天に変身して、はるばる日本にやってきたというわけ。なんだか、若い頃には極悪非道の悪党だったのがその後すっかり更生し、いまじゃ善人の篤志家になっちまったような、どこかにありそうな話じゃね。
◆そんな暗い過去を持つ大黒様だから、当初は破壊と豊饒の神として人々に恐れられておったんじゃが、やがてその名前が彼に転機をもたらすことになる。つまり、よく似た名前の“大国様”こと、大国主命(おおくにぬしのみこと)との習合じゃ。こちらは「因幡の白兎伝説」で有名な日本古来の神様でな、大きな袋を肩に掛けた博愛精神に富んだお方だね。二つの神は合体し、いつか民衆の間で福徳・五穀豊穣・商売繁盛の神として、広く愛され信仰されるようになって行く。人生いろいろ、神様もいろいろだあ。
ふつう大黒様は左肩に大きな福袋を掛けておるが、これは大国主の袋から来たものでな、いっぽう右手に持った打ち出の小槌には、仏教系の名残をとどめる如意宝珠の模様(桃に似た形)が描かれておる。また、米俵は江戸時代になって、五穀豊穣を願う信仰が付加され結びついたもの。なんともめでたい大黒様のお姿じゃが、そこにはこの神様が歩んできた、ロング・アンド・ワインディングロードが凝縮されているんじゃね。
◆そうだったんだよなあ、大黒様って苦労人なんだよなあ。そんな目で振り返って、ガンバ大阪の大黒君を見ると、彼もやっぱりスンナリと日本代表に選ばれたわけじゃあない。エースのはずだった久保竜彦が腰痛で辞退し、最後の最後になっておまけのようにジーコ監督が追加召集。その上、当日の北朝鮮との試合に投入されたのも、後半34分になってからの最後のカード。そんな厳しい状況の中で決勝弾を入れて日本を救ったわけだから、この大黒様はやはりただならぬ強運の持ち主かも知れんよ。
なんといっても、元は泣く子も黙る暗黒世界の神・大黒天じゃ。大黒君もこれから代表の試合に出る機会が増えるかも知れんが、なに遠慮はいらん。そのときは「マハーカーラ」の本性をむき出しにして、おおいに暴れて欲しいもの。そして、わが日本代表をドイツへと導くんじゃ。誰だい、つぶやきシローに似てるなんて言ってるのは? この際、顔は関係ないってことをみんなに見せてやんなさい、大黒君!
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