その104.暑い日は「冷や汁」に限ります(2005.8.1)
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◆すっかり真夏じゃね。も〜たまらん、という暑さが連日続くね。しかしこう暑いと、ふつうなら食欲が落ちて夏痩せするもんじゃが、そんな傾向がまるでないのがわが肉体の恐ろしさじゃな。だいいちTシャツなんか着ると、この出っ張ったお腹の目立つこと。そのむかし、「欲望という名の電車」てな映画に出ていた若き日のマーロン・ブランドの、ピチッとしたTシャツ姿はセクシーで格好良かったが、あれとはえらい違いじゃね。なに、比較する方が間違っている? そうピシャッといいなさんな、ピシャッと。
じゃがこんな暑いとき思い出すのが、以前仕事で行った宮崎で食べた「冷や汁」の味だね。いや〜、あれは美味かった。特にお酒を飲んだ後、最後の締めにこいつをサラサラっと流し込むのが、もう病みつきになるほどたまらんかったね。え、「冷や汗」なら知ってるが「冷や汁」は知りません? じゃあ、そういう無知なキミの為に、今日はわしが「冷や汁」について講釈してあげるから、耳の穴をかっぽじって良く聞きなさい。
◆「冷や汁」は宮崎県の郷土料理の一つでな、特に暑い季節なんかにはもってこいの食べ物なんじゃ。まあ一言でいえば汁掛け飯なんじゃが、意外に簡単に作れるところが便利なんだね。まず、から煎りしたいりこと胡麻をすり鉢ですりつぶし、これに麦味噌を入れてよく混ぜる。つぎに、出来たものをフライパンなどで香ばしく焼き、すり鉢に戻して冷たいだし汁を掛けよく溶かす。これに薄く切った胡瓜や紫蘇、万能ネギなどの薬味を浮かべ、冷蔵庫でよく冷やしておく。食べるときは、温かい麦飯にこれを掛けるだけ。食欲のないときやお酒を飲んだ後などでも、こいつをサラサラっと豪快にかき込むと、驚くほどいくらでも腹に入って行くから不思議だよなあ。とにかく美味いんじゃ。
わしなんか若いころ宮崎に出張すると毎晩、ホテルの近所の飲屋街で飲み歩いた後、最後は必ずこれを注文して食べたもんじゃよ。で、あるとき仕事先で地元の人に昨夜の「冷や汁」の話をすると、「そこに豆腐ば手で潰して入れると、うまかですよ」といわれたことがあったな。ところが、そばにいたもう一人が「いや、入れん方が良か」と反論して、意見が割れたことがあったが、きっとこの「冷や汁」は宮崎の各家庭ごとに作り方が微妙に違うんじゃろうな。
◆そういえばだいぶ前にテレビで、山で修行をする山伏さんを追跡取材した、ドキュメンタリー番組を見たことがあったが、このときの彼らの山中での食事も記憶に残っておるよ。わずかな白飯に漬け物、そして携帯した味噌を山の清水で解いただけの味噌汁。じゃが、そのとき彼らが話してくれた「この清水で解いた冷たい味噌汁が喉を通る味は、他の何ものにも代え難い」という意味の言葉は、そのときの笑顔とともにいまでもなぜか印象に残っておるな。厳しい修行の合間に、ひとときスーッと心と体を癒してくれる冷たい味噌汁の味は、きっと山伏さんにとって最高のご馳走だったんじゃろうなあ。
まあ考えてみると、わしらはふつう味噌汁ってえと温かいスープを連想するが、あんがい冷水で溶いた味噌汁も捨てがたい味がするもんじゃね。ネットで調べてみるとこの冷たい味噌汁、意外に夏向けの郷土料理として全国各地にありそうだよ。といってもキミのようにさ、昨日の残った味噌汁をご飯にぶっかけただけじゃダメだっちゅ〜の!
◆というわけで今回は、教えたくはないんじゃが、わしのとっておきのオリジナル「冷や汁」の作り方を、特別に教えて上げよう。なあに本物の「冷や汁」より、さらに作り方は簡単じゃよ。その割に目ん玉が飛び出るくらい美味いから、ビックリしなさんな。
まず、丼に温かいご飯を盛る。次にその上に、握り潰した豆腐と細かく切ったキムチ、身をほぐした缶詰のシーチキンを適当に散らし、最後に冷たい水で溶いた味噌汁を掛けて、ハイ出来上がり。これをジャブジャブかき混ぜてサラサラっと口の中にかき込んでみい、どひゃ〜っというほど美味いから。なんたってこれ、信じられないほど作るのが簡単な上、材料はすべて近所のコンビニで調達可能なんじゃ。名付けて「コンビニ冷や汁」。暑い日の夜食にでも騙されたと思って試してごらん、すぐにわしに感謝したくなり、ついでにお中元を贈りたくなるからさ。誰だい、貧乏人の食い物だなんていうのは? そんなことをいう奴はいっぺん山伏の修行をして、マムシにでも追い掛けられて見たらいいんじゃよ。
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