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その109.男の涙は見たくない(2006.1.14)
その晩、ホテルの部屋で泣きながら電話をする一人の中年男の姿があった。「グスン、頼むよ明日は。キミのところは楽勝で1位決定じゃないか。それに比べりゃ、ウチはもう崖っぷちなんだぜ。なあ、昔なじみの二人じゃないか。明日は俺を男にしてくれよ、グスグッスン…」「もういい、分かったよ。今夜は何も考えずミルクでも飲んで寝てくれ、アミーゴ」。というわけで翌日、日本はブラジルに奇跡的な勝利を上げ、かろうじて2位で予選リーグ突破と相成った。その日の川淵キャプテンのコメント、「なっ、ジーコを監督にして正解だったろ」──。
 な〜んて妙な初夢で2006年も明けたが、そうなんだよなあ、今年はいよいよサッカーW杯ドイツ大会の開幕なんだよなあ。早いものであと半年もすれば、世界の強豪32ヶ国が彼の地で世界一をかけてしのぎを削る、熾烈な戦いが始まるってわけさ。優勝はブラジルか、イングランドか、アルゼンチンか、はたまたオランダか──。周りはいずれ劣らぬ猛者揃いじゃが、わが日本代表も臆することなく立ち向かって欲しいもんじゃな。まずは予選リーグF組の2位以内の通過が目標となるが、なあにこんなところで敗退していては論外というもの。日本サッカーの未来のためにも、代表選手には死ぬ気で戦って貰いたいね。なに、いざとなればジーコの涙で? だから、あれはただの夢だっつ〜の。

そのF組なんじゃが、日本が戦う相手というのが優勝候補筆頭のブラジルの他に、クロアチアとオーストラリア。この組に入ったのが幸運だったか不運だったかは結果次第じゃが、まあ“死のグループ”に入らなかっただけ、ラッキーと思うしかないじゃろ。ブラジルは別格としても、クロアチアとオーストラリアには勝てるチャンスもあるはずだよ。だいいちクロちゃんには、前々回のフランス大会で敗れた恨みがある。
 あのときは何たって、こっちは初出場で全員がJリーガー。まるで、紅白歌合戦の初舞台に上がった新人歌手みたいに、ガチガチに固くなっていたもんじゃった。おまけに、敵にはシュケルというエースストライカーがいた上、ユニホームも紅白チェッカー模様で、目がチカチカしたものなあ。あれから8年、ちったあ日本選手も逞しくなったはずだし、国際経験だって豊富になった。1点取られたらジ・エンドみたいな、あの頃のチームが持っていた悲壮感はもうどこにもない。ここらでグンと成長したところを見せつけて、今度は連中をコテンパンに粉砕して欲しいよね。名付けて「ニュルンベルクの復讐」──どうよ、これ?

で、もう一つの勝ちたい相手が、オーストラリア。何というてもここは32年ぶりの出場で、はっきりいえばどうも強いのか弱いのかよく分からない国だね。まあ、ラグビーの試合なら百戦してもわが方の百敗は堅いところじゃが、ことサッカーに関してはそれほどの戦力差はないはず。たとえ相手がデカくて当たりが激しくても、スクラムやモールがない分、日本はスピードとテクニックで十分対抗できる。
 確かにキューウェルやビドゥカのようにヨーロッパで活躍する選手は多いが、代表チームは毎回のように他大陸とのプレーオフに敗れ、出場を逃してきた。今回はレコバ率いる南米の雄・ウルグアイを下して、満を持しての出場じゃが、国際舞台での活躍の経験はそれほどないだけに、日本がつけ入る隙はあるんじゃないのかい。だいいちこの大会で、サッカーが国技でない国に負けるのは屈辱だものなあ。え、日本だって同じだろうって? それを言っちゃあ、おしまいよ。

さていよいよ別格のブラジルなんじゃが、今回のセレソンはとにかく凄いのひとこと。“史上最強”の呼び声がフツーに聞こえるほど、どえらいメンバーが顔を揃えておる。ざっと名を上げるだけでも、ロナウジーニョにロナウド、アドリアーノ、カカ、ロビーニョ、ロベカル、カフー、ジダ──。とにかくヨーロッパを席巻するスター選手たちが、これほど名を連ねたチームはかつてないよ。正面からこことまともに勝負できるのは、いまのところロナウジーニョ率いるFCバルセロナくらいしかないんじゃないの。
 そんなわけで、わが日本が勝てる要素はどこにも見当たらないが、しかし引いて守ってカウンター狙いという戦いはして欲しくないな。何より相手は、世界一のブラジルじゃ。幕下力士が横綱に挑戦できる、願ってもない好機なんじゃ。逃げたりせず、自分のぶちかましや突っ張りがどこまで通用するか、思い切り正面から当たって試して欲しいね。なあにサッカーには、相撲にない引き分けというものがある。うまくブラジルとドローに持ち込んで、2勝1分けで予選リーグを突破できれば、世界もビックリというもんじゃ。とにかく、そんな結果を期待してまっせ、ジーコさん。だいいちあんた、嘘泣きはあんまり得意そうじゃないもんなあ。