その114.人生とは旅である、なんちゃって(2006.7.25)
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◆だけど似てるなあ、あの片岡千恵蔵に。なに、誰のことかって? いや、この度めでたくサッカー日本代表の新監督に就任した、イビチャ・オシム氏のことじゃよ。わしらから見ればオシムさんのギョロリとした眼は、何となく“ピッチの千恵蔵”とでも呼びたくなるほど、かつての銀幕の大スターを思い起こさせるってわけ。「おう、この桜吹雪が目に入らねえか」なんてね。ただし、5頭身体型で“歩く大仏さん”のようだった千恵蔵御大に比べたら、オシムさんの方は身長1メートル90センチを超える大男。脚の長さもずいぶん違うようじゃが、しかしその風貌はどことなく、不正を許さぬ遠山の金さんや沈思黙考の大石内蔵助に通じるものがある。その点では前の二人の外国人監督よりも、ずっと日本人には親しみ易いんじゃないのかな。ま、そんなこんなでスタートした新生・オシムジャパン、前監督のもとで空中分解してしまった日本代表を、なんとか世界で戦える集団に再生して貰いたいもんじゃね。
ところで、「人生とは旅である」なんて言葉を残して格好良く引退してしまったヒデは、いったい今頃どこにいるんじゃろうな。なに、故郷・山梨の下部温泉あたりで、じっくり湯治? キミなあ、老人会の懇親旅行じゃないんだからさ。やっぱりヒデの一人旅は、世界が舞台じゃないと今さら格好付かないんじゃないの。
◆そういや、わしの一人旅の初体験も今となっては懐かしい思い出じゃね。え、ヨーロッパかアジア、それともアメリカかって? まあその、そんな大舞台ではないんじゃが、はやい話が、あれは奈良の市内観光から飛鳥を回った2泊3日の旅だったなあ。笑うんじゃないよ、人間には懐具合というものがあるんだから。
ま、一人旅も慣れると肝も据わるし時間の使い方も分かってくるもんじゃが、初めてのときは自分が何をしていいものやら、けっこう時間を持て余したのを覚えておるよ。だいいち、自分がどんな顔をして歩くべきなのか、そこさえも分からない。仏頂面なのは面白くないし、かといって一人でヘラヘラ笑うのも変じゃろう。人みしりで繊細な青年だったわしは、知らない人間と自然に会話が出来るようになるまでに、何回か旅の経験を積まねばならなかったな。まあ、今なら他人の迷惑など顧みず、どこまでもマイペースを貫けるわしなんじゃが、あの頃はまだ常に誰かの視線を気にしてたんだね。だから、最初に泊まった奈良市内のホテルでは、夜飲みに行くこともなく、部屋のテレビを見ながら、買ってきたチョコレートを一人でボソボソ食べていた記憶があるよ。カワイイじゃろ。
◆で、一人の旅も何度か回を重ねると、だんだんコツが掴めるようになる。電車で隣に座った人や飯を食べた食堂の人とも気軽に喋れるようになるし、ホテルのフロントで飲み屋の場所を訊くことも覚えてくる。地元の人との触れ合いが、けっこう楽しくなるんだね。中でも、道を尋ねたりバスや電車の時刻を調べたりは旅の大事なポイントじゃが、これは何といっても女性、それもオバサンを頼るに限るな。西でも東でもとにかく、日本のオバサンは本当に親切。別に若い女性がいけないというわけではないが、いちど子育てを経験したオバサンはきっと、人の世話を焼くことがごく自然にできるようになるんじゃろうな。
例えば次のバスの時刻を尋ねたところ、手元の電話でわざわざバス会社に電話して訊いてくれた人もいたし、急に降り出した雨で困っていたら、備え付けのビニール傘をこっそりくれた、小さな資料館の受付のオバサンもいたな。そうそう小さな資料館といえば、暇そうにしていた受付のオバサンの話し相手になってあげたら、特別に館発行の古地図を貰ったこともあったっけ。まあこれらは、わしがオバサンにもてるということもあるんじゃろうが、どれも素敵な思い出として記憶に残っておるよ。だからみんなも、旅をしたときはオバサンに敬意を払いつつ、うまく活用することが大事じゃね。でも話し掛けるときは、なるべく優しそうな人を選ぼうな。
◆一人旅のいちばんの面白さはやはり、日常とは違う環境の中で自分との対話を楽しめる、というところかも知れんよ。なんたってそばに話し相手がいるわけじゃないから、いろんなものを見たり聞いたりした感動も、誰かと分かち合うことは出来んわな。その代わりただ一人、自分の中でそれらを共鳴させ、味わい、記憶に刻み込む作業が必要となる。そこに自分なりの発見が生まれてくるところが、また新しい感動を生んだりもする。旅の良さをしみじみ感じるのは、そんなときなんじゃな。だから、誰かと一緒に行く賑やかな旅では得られない、一人だけの静かな歓びが、自分の心のひだにいつまでも残るってわけなのさ。分かるかな?
ところでわしも近頃、とんと一人旅って奴をやっとらんが、たまにはブラリとどこかの土地をさすらいたいもんじゃね。漂泊の詩人てなわけ。なに、ヒデは世界2周分の航空チケットを手に入れた? クソ〜、羨ましいのう。じゃあ、わしも負けずに町内を2周してきて、帰りにたこ焼きでも買ってくるとするか…。
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