その117.お屠蘇気分で見た映画(2007.1.17)
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◆いや〜この正月、おせちを食べたりお酒を飲んだりとのんびりした生活が続いたせいか、なんだかまた太ってしまったなあ。で、のんびりついでに話題の映画を2本ほど見たんじゃが、やっぱり寒い季節に暖房の効いた映画館で、物語の世界を楽しむのは気持ち好いもんじゃな。温かいお茶なんか飲みながらさ。なに、どうせ寝てたんだろうって? キミなあそう言うけど、面白い映画だったらわしだって寝たりはせんよ。わしがついいびきを掻いちまうのは、面白くない映画だけ。もっとも、たいていの映画の最初の15分間は、わし記憶が飛んどるけどな。
しかし、今回見た映画は2本とも、いろんな意味で最初から最後まで目が離せなかったな。その1本がクリント・イーストウッド監督の話題作『硫黄島からの手紙』。これは良かった。あのローハイドの若者ロディ・イェーツも、ついにこんな映画を作るようになったのかと感心したよ。とにかく、アメリカ人が日本人を主人公にして作った映画としては、これまでの中の最高傑作になるかも知れんと、わしは思ったね。
◆この映画、イーストウッド監督が太平洋戦争の激戦地・硫黄島の戦闘を、日米双方の立場から描いた硫黄島2部作の一つでな、先に公開された『父親たちの星条旗』と対になる作品じゃ。『星条旗』がアメリカ側の兵士を主人公にしたのに対し、『手紙』の方は日本側の兵士や総指揮官・栗林中将の視点から描かれておる。それも、淡々とかつ克明にな。この淡々かつ克明にというところが凄い。しかもアメリカ人が撮ったとはとうてい思えないほど、普通の日本人が普通に描かれておった。
むろん、そこにはニンジャもいなければゲイシャやサムライもいない。兵舎の入口に鳥居が立っていることもないし、出っ歯で眼鏡のパターン化された鬼軍曹も出ては来ん。ただ、そこで戦い死んでいった日本人という名の人間の姿を、少し離れた視点から見事なまでにリアルに描ききっておるんじゃね。しかも、どこか温かい視線でじゃ。つまり、オリバー・ストーン監督の戦争映画のようなメッセージ色や、日本映画の監督たちが好きそうなお涙頂戴物語はそこにはないが、しかし、だからこそ観客は深く静かに打ちのめされ、その無言のメッセージに圧倒されるというわけさ。そこが良いんじゃよ。イーストウッド監督、日本人を初めて人間として描いてくれて有り難う、とわしは言いたかったね。
◆で、もう一つ見た映画というのが、市川崑監督自身のリメイク作『犬神家の一族』。これこれ、笑うでない。わしらの世代にとってはこの映画、けっこう懐かしい匂いに満ちた作品なんじゃよ。しかも前作から30年も経って、市川監督が再び主役の金田一耕助に石坂浩二を起用して作る大作映画。よっぽど何か新しいアイディアを得て、その成果を世に問う意欲作だと誰もが思うわなあ。な、キミも思ったじゃろ。ところがどっこい、豈図らんや。なんとこの映画、脚本からセットデザインから画面の構図まで、何もかもが前作をそっくり踏襲。『シャレード』のパクリのようなテーマ音楽までが、前のまんまなんだものなあ。違うのは、続演する石坂浩二や加藤武、大滝秀治らがすっかり老けてジイサンになっちまったことと、犬神家の一族を演じる役者さんの顔ぶれが変わったことくらい。
まあ作品自体は、巨匠・市川崑の腕で古風な上質エンタテインメントに仕上がっておるから、初めて見るお客はそれなりに楽しめただろうよ。じゃが、わしのように新機軸を期待したオールドファンは、なんか肩透かしを食らったような気分になったはず。はっきり言えば、何のためにリメイクしたのかよう分からん映画だったってわけさ、うん。
◆いっそのことどうせリメイクするのなら、ハリウッドで映画化権を買い取って貰って、アメリカ南部の大地主家あたりを舞台にしたゴシックロマンにでもすれば良かったのに、なんてつい思っちまったね。タイトルはむろん『犬と共に去りぬ』。一族の総帥・犬神佐兵衛翁には、ジャック・ニコルソンなんか適役だし、主人公の探偵はボサボサ頭のジョニー・デップで、役名はちょっと洒落て“コージー・キンダーマン”なんてどうかな。いまやリメイクが大の得意技となったハリウッドのことだもの、世界的大ヒット間違いなしだとわしは思うんじゃがね。
てなわけで、老いてますます輝きを増すクリント・イーストウッド監督と、老いてちょっぴりくたびれた金田一耕助の対比が面白かった今年の正月映画じゃが、両作品とも最後まで客の目をそらさないところはさすがだったね。え、勝手なことを言ってないで、お前も老いて少しは輝きを見せたらどうだ? そうは言うてもわしの輝くものといえば、いまのところ最近買ったバーゲンの靴と、すっかり寂しくなったこの頭ぐらいなんだよなあ。まあ、今年はわしの代わりにもう一人の輝く老人、サッカーのオシム監督に頑張って貰うことでどうかな。昨年、ジーコ・ジャパンで失墜した日本代表の輝きを、ぜひ老人パワーでもう一度取り戻して頂戴ね。よろしく、オシムさん!
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