その121.売り売り帰る、瓜売りの声(2007.8.29)
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◆しかし、まあ暑いこと。なんか、毎年同じことを言ってるようじゃが、今夏の猛暑は特にすごかったね。気象庁は今年から最高気温35度以上の日を「猛暑日」と読んでおるが、わしなんぞこの言葉にもうすっかり慣れちまったよ。もっとも、暑いのは日本だけではなく、世界中がそうなんだからひどいもんじゃ。お陰でここ数年、地球の平均気温や海面水温は上がり続け、ついには北極海の氷が過去最小にまで減少したらしい。こうなると海面の水位がどんどん上昇して、いずれわが国の面積も狭くなるんじゃないかと、わしは今から心配しておるんじゃがね。うん、なんだか損するような気がしてさ。
だけど、こんな心配をしてもしなくても食欲だけはあるのが、わが胃袋の逞しさというか浅ましさというか。猛暑の中でも腹だけは、ちゃんと減るんだよなあ。それでこの季節、やっぱりなんといっても美味いのが瓜(ウリ)の仲間じゃね。早い話が、夏の三度の食卓にキュウリ(胡瓜)の浅漬けがなかったら、わしも困るしキミだって困るだろう。あまり食欲がないときにも、これさえあればあら不思議。わしなんかおかずはこれだけで、何杯でも飯が食えるのが得意技だからなあ。キュウリは胃弱民族の日本人にピッタリの、夏の神様が与えてくれた最高の食材といっても良いんじゃないのかい。
◆瓜といやあ、近頃急にメジャーになった感のあるのがゴーヤ(ニガウリ=苦瓜)じゃね。エイリアンの卵みたいなブツブツだらけのグロテスクな姿で、恐ろしく苦い味がするのに、このところの全国への普及ぶりはすごい。まるで沖縄の地方競馬から出てきた馬が、あっという間に中央で人気馬になったようじゃ。この裏にはやはり苦いけど体に良さそうという、薬膳効果への期待があるんじゃないのかな。事実、ニガウリにはビタミンCが豊富なうえ、糖尿病患者の血糖値を下げる効果もあるという。つまり、押しも押されもせぬ立派な薬膳食材なんじゃね。瓜の仲間には珍しく油料理に相性がいいため、豚肉や卵などといっしょにチャンプルーにして食べると、いくらでも行けるし精もつく。それに、わしなんぞたまにカレーの具に入れたりもするが、ちょっとビターな大人味のカレーが出来て、これ食欲増進にはピッタリなんじゃよ。
なに、カボチャ(南瓜)の煮物は嫌いです? 何を言うとる、このトウナスが。同じ瓜の仲間でもホクホクと芋のような食感のカボチャは、煮物にすれば食べごたえ十分で腹が膨れること間違いなし。おまけにビタミン類やカロチンも豊富だし、贅沢言うとったらバチが当たるぞ。ただし甘みがけっこう強いので、キミみたいに苦手にしている者もおることはおるな。そこでわしがお薦めなのが、カボチャ入りの味噌汁じゃ。山梨県の名物、ほうとう鍋の具材には必ずカボチャが使われておるが、独特の甘く黄色いスープの味は他にはない絶妙のうまさだね。この味噌汁と溶けかかったカボチャの組合せは、コクがありもう日本最強のツートップ。いいからキミも、今夜ためしてみるずらよ。
◆反対に味も素っ気もない瓜の代表といえば、トウガン(冬瓜)かな。デカくて肉厚で水分も多く、クセがないためお吸い物や煮物など何にでも使える万能選手。あなたの色に染まります、という可愛い奴なんじゃ。それに、お腹いっぱい食べてもカロリーが低いため、ダイエット食にも最適というから凄いじゃないの。わしなんかの子供の時分は、夏休みの原っぱの片隅によくこいつが自生しておったが、やった〜!とスイカと間違えて近寄り、がっかりして蹴飛ばしたのを覚えておるよ。その節は失礼致しやした。しかし夏に穫れる瓜なのに、なんでこいつ名前が冬瓜なんじゃろうな? その答えは、日持ちが良いため冬まで保存が利くからだとさ。へえ〜!
他にも瓜にはいろいろあるぞ。八百屋に山のように並んだ長細いシロウリ(白瓜)は、いわずと知れた奈良漬の材料。これを半分に割って種を取り、塩漬けしたあと酒粕に漬け込めば、冬にはべっ甲色の奈良漬が出来上がる。うう、たまらんなあ。そういえばむかし京都の安宿に一泊した折り、朝食のおかずに出てきた奈良漬はうまかったが、珍しかったのはその中に小さなヒョウタン(瓢箪)の漬物があったこと。ヒョウタンも立派な瓜の仲間じゃが、まさか食えるとは思わなかったよ。太閤秀吉もビックリじゃ。そうそう食えるといえば、小学校の理科の観察でおなじみのヘチマ(糸瓜)だって、若いうちに収穫すれば炒め物などに使えるというぞ。瓜って何でも食べられるんだね。食えないのは、秋に真っ赤になるカラスウリ(烏瓜)とキミの性格くらいかな。
◆え、大事なものを忘れちゃいませんか? 分かっておる。ウォーターメロンこと、スイカ(西瓜)のことじゃろう。巨大な砲丸のような奴をスパッと割って、真っ赤な色がパッカリ現れたときの喜びは、誰にとってもまた格別。あの真っ赤な果肉と甘いジュース、ガブリとかぶりつくときの爽快感は、他の何ものにも代え難いものなあ。スイカはやっぱり夏の果物の王様じゃよ。じゃあ、女王様は何かって? むろん、スイカが庶民の王様なら、高貴な香りを漂わせた女王様はメロンに決まっておる。こちらは豪快にガブリという訳には行かないが、イタリア料理で生ハムと一緒に口に入れたりすると、世の中にこんな甘美なフルーツがあったのかなんて感動するよな。とにかくうまい。ちなみにメロンを漢字で(甜瓜)と書くって、知ってたかい?
しかしこうしてみると、瓜の仲間も多士済々じゃね。八百屋でドサッと安売りしているものもあれば、果物屋の高級フルーツとして鎮座ましますものもある。まあ、どれが野菜でどれが果物かなんて野暮なことはいわんが、幅が広いといえばとにかく幅広い。日本人は遠い昔から瓜のお陰で、ずいぶんと食卓を豊かにして貰っていたというわけさ。そんなわけで瓜に敬意を表して、今夜は冷やしたマクワウリ(真桑瓜)でも食べることにしようかな。ただし、瓜には利尿作用があるんでな、オネショしないよう寝る前にちゃんとトイレに行っとこうっと。
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