その18.花のお江戸のリサイクル(2000.4.12)

いやあ、今年も見事に咲いたね桜が。毎年のことながら、あのピンクの花びらがパッと咲きそろうと、なぜか心がうきうきしてくるから不思議だね。先週の日曜にちょっと上野公園を歩いたんじゃが、まあ、花の下は人間だらけ。サラリーマンに家族連れに外国人にホームレスのオジサンまで、みんな陽気に飲んで食べて歌っておったね。わしもつい、ビールの一杯もやりたくなったよ。老若男女を問わず人間って、桜の花の下ではきっと躁状態になるんだな。
しかし、困ったのがゴミとトイレじゃ。集積所はまさにゴミの山。中には残り物を片づけずに、その辺に放り出して行く不届き者もおる。おまけに公衆トイレは長蛇の列。オシッコの近い人はさぞ困ったことじゃろう。なに、そんなときは木の肥料に? いかんいかん、立ちションと車のうるさいクラクションは、マナー違反じゃ。出したものはきれいに片付ける、これ、文明人の義務であり必要な資格でもあるな。
かつての江戸は初期の人口が約100万人、やがては300万人に達したと推定される。同時代のパリや北京などをはるかにしのぐ、世界一の大都市じゃったね。ところが、それほどの人口密集地でありながら、市街や近郊の環境汚染はなく、川や用水の汚染などもほとんどなかった。同じ時期のパリの街路は、糞尿にまみれて悪臭を放っていたそうな。えらい違いじゃ。江戸は世界一清潔な都市じゃったんじゃねえ。なーんでか?
秘密は、リサイクルのシステムにあった。まあ、武士も町人も食べたものは同じように排泄をするね。江戸市中のこんな糞尿のほぼ全てが、じつは近郊農家によって引き取られ、貴重な肥料として農地の土壌改良に利用されたんじゃ。合理的じゃねえ。なに、リサイクルじゃなくてクサイクル? まあ、そう言いなさんな。
大消費都市江戸の近郊農家では、大きな現金収入となる野菜の生産がさかんだったな。しかし、それには大量の肥料が必要になる。そこで農民たちは下肥(しもごえ)、すなわち江戸の市民が排泄した糞尿を求めて、市中に足を運んだわけじゃ。市民の食生活は地方にくらべて豊かだったから、その糞尿も栄養価が高いとされ、高級肥料の扱いをうけた。農民たちは争ってそれを買い求めたんじゃ。特に、大量の糞尿が出る武家屋敷や長屋は、人気が高かった。ある長屋では、家主が汲み取りの礼金を受け取り、暮れにその一部で餅を買って、生産者である店子に配ったとか。
むろん、こうなると糞尿の売買を専門とする職業が登場する。大資本を投じて独占をはかったり、船による大量運搬を行ったりする者も出てきたね。ベンチャービジネスならぬ、糞尿ビジネスという奴だ。いやー、すごいもんじゃったねえ。
しかしこうなると、わしら現代人も江戸時代の合理性を、見習わなけりゃならんな。と言っても、別に糞尿を肥料にしようというわけではないよ。リサイクルのことを言ってるの、わしは。え、やっぱり立ちションは役に立つ?きみねえ、オチンチン腫れるよ、しまいにゃ。