その32.秋の陽には紅い花がよく似合う(2000.11.12)

秋だねえ。ずっぽりと深い秋になった。キンモクセイの香りなんかを嗅ぐと、なんか、ちょっとセンチメンタルな気持ちになるなあ、わしも。君の瞳は一万ボルト〜、か。ああ、ほのかに甘いあの香り・・・。誰だい、トイレの芳香剤の匂いなんて言ってるのは?
そう言えば、もうヒガンバナの盛りは終わってしまったかな。知ってるじゃろ別名、曼珠沙華。あの、川の土手や墓地などに群生する、燃えるような紅い花のこと。茎がすらりと高く、そのてっぺんに火炎型の真っ赤な花が咲くんじゃ。鱗茎にアルカロイドを含む有毒植物でな、花には実がならない。そのため、人間の手で土手や墓地に植えられて増えたと言われておるが、それは土手をモグラから、墓地を野犬から守るための知恵なんじゃそうな。ちょっと怖いね、この話。
他に紅い花と言えばこの季節、サザンカがあるな。サザンカ、サザンカ、咲いたみちー・・・誰も知らんのかな、この歌。濃い緑色の葉っぱの中に、りんと咲く小さな紅い花びらはよく目立つよ。ツバキの親戚じゃが、違うところは花の散り方じゃね。ツバキは大きな花全体が一度にどさっと落ちるが、サザンカの方ははらはらと一枚ずつ散るな。こちらの方がなんとなく風情があるね。
ブタノマンジュウと言う植物も、いまどき美しい紅い花を咲かせよる。知ってるかな、ブタノマンジュウ? これ、原産地の地中海地方では球根の形からそう呼ばれているらしいが、シクラメンの別名なんじゃ。和名がカガリビバナと呼ばれるのは、花びらが篝火の炎のように紅く反り返っているからだとか。布施明の歌う「シクラメンのかほり」でこの時期の代表的な花になったが、「ブタノマンジュウのにほひ」で再リリースしてもヒットしないじゃろうね、きっと。ブヒー。
なに、俺を忘れるな? おお、そう言うあなたはポインセチア様。寒い季節にはかかせない紅い花じゃが、残念ながら花のように見えるのは実は葉っぱなんだね。冬が近付き日照時間が短くなると、枝の先の方の葉が真っ赤に変わるのじゃ。ポインセチアの花は、大きな葉っぱの中央部に小さく白く固まって咲いておる。なんか、申し訳なさそうな顔をしてな。そんなに縮こまることはないのに。
他にもゼラニウムや寒牡丹など、晩秋に紅い花を見せてくれる植物はいくつかある。しかし、澄んでちょっと冷え込んだ空気の中、秋の傾いた夕日を浴びた紅い花の色は、どれもまた一段と美しいな。秋の陽のつかの間の輝きと、紅い色の艶やかさが、なんだかもの悲しくマッチしているようじゃ。つげ義春のマンガ「紅い花」は、思春期の少女の秘密をかいま見る少年の心情が、輝く陽の中で揺れ動くお話だが、傑作じゃね。舞台は夏だったが、あれを秋に置き換えると、また違った叙情的な風景が浮かんでくるな。秋の陽を浴びながら落ちる紅い花の色は、たぶん夏とは別の美しさを見せてくれるかもね。
なーんて、今回はセンチに始まりセンチな終わり方になってしまったが、これも秋の終わりを迎えたせいかな。ちなみにわしの鼻がいま赤いのは、急な冷え込みで風邪をひいたせいなの。みんなも風邪には気をつけてな、ハクショーン、グッスン。