その53.“スタオベ”を根付かせよう!(2001.9.14)

おお、最近、テレビのプロ野球中継の視聴率が軒並み下がっておるね。人気の高いときにはゴールデンタイムのキラーコンテンツだったのが、いまや10パーセント台の下の方が当たり前という状況じゃ。厳しいねえ、今年は。もっとも、プロ野球のテレビ中継と言っても、ほとんどが読売ジャイアンツのカードばっかり。つまりこれは、日本のプロ野球の人気が今年になって急に落ちたと言うより、巨人戦が視聴者にとって魅力が無くなったと言うことじゃろうな。

しかし、この原因のいちばんの要素が、メジャーリーグでのイチローの大活躍にあるのは間違いないね。なんたって、あのNHKが衛星放送でマリナーズの試合を連日、放送しておる。ニュースでも毎日、イチローが出て来るもんな。緑の芝生が広がるお洒落な球場に、野球を心から楽しむ観衆、そして迫力ある大男達のプレーと彼等をしのぐイチローの活躍。これじゃあ、老いた長嶋監督しか映すものがない日本の野球中継は、色あせて見えるわなあ。イチロー&NHK、寄り切りで長嶋&民放を破る、というところかな?
 それにしてもアチラの観衆は、選手を乗せるのがうまい。下手なプレーにはブーイングじゃが、好プレーにはすかさず拍手を送る。感動したときには、全員立ち上がってのスタンディングオベーション。これじゃ選手も、やる気が出るというものじゃ。この快感を味わったイチローは、もう日本球界には帰って来んよ。失ったものの大きさが、今になって分かると言うものじゃね。

スタンディングオベーションは、欧米などで良く行われる麗しい習慣じゃ。スポーツや音楽・演劇などの会場で、感動した観衆が立ち上がり、選手や出演者に敬意と感謝を込めて拍手を送る。そう言った光景はテレビなどでもよく見かけるな。こんなものを見せて聴かせてくれて有り難う、この感動と喜びを何とかして態度でお返ししたい、これが座ってなんかいられるかい! 観衆の心はそんなところじゃろう。グラウンド・舞台と客席の心が一体となる、美しい瞬間じゃね。シャイな日本人にはなかなかこれが出来ないが、向こうの人は観戦・観劇のマナーとして自然に身についておる。シドニーオリンピック・女子マラソンの高橋尚子選手のウィニングランにも、観衆は立ち上がって拍手をしていたね。この習慣はぜひとも、日本にも根付かせて欲しいな。外国の変な言葉や習慣を輸入するより、ずーっといいよ。なに、前が立ったら後ろの席が見えない? キミね、一緒に立ちなさいってえの。

わしが今まででいちばん感動したのは、1984年のロサンゼルスオリンピック、重量挙げ会場からのテレビ中継じゃった。当時「重量挙げの玉三郎」と呼ばれたのが、82・5キロ級日本代表の砂岡良治選手。ソ連・東欧諸国の選手がボイコットして、この大会で金メダルをねらう砂岡選手は、ジャーク2本目で失敗し2位につけていた。3本目は、無難な重さを上げれば銀メダルが手に入る。しかし彼はここで、いちかばちか一発逆転の金メダルをねらって、自己記録を2・5キロも上回る重さに挑戦する。結果はみごとに失敗し、砂岡選手が手にしたものは銅メダル。残念じゃったが、観衆はスタンディングオベーションで彼の勇気を讃えた。アメリカ人というのは、チャレンジ精神を高く評価するんだね。このときは本当にわしも涙が出たよ、うん。
 「赤信号、みんなで渡ればこわくない」と言う名言があるが、スタンディングオベーションも一緒じゃね。一人だと恥ずかしいけど、みんなが一斉にやれば大丈夫。え、キミも今度、浅草演芸ホールで落語を聴いた後やってみる? う〜ん、気を付けてな。