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その63.古代から万能選手で人気者(2002.2.12)
◆なんだかこの頃、ちょっとだけ春らしい陽気の日があったりなかったり。でも、少しずつ季節が動いてることを感じさせるような、今日この頃じゃね。なに、毎回書き出しが同じパターンだ? まあ、そう言わないでよ。書き出しと味噌汁のだしにはいつも苦労してるんじゃよ、こう見えても。
そんなわけで“季節の旅人”と呼ばれるわしは、昨日ふらりと、近くの亀戸天満宮の梅を見に出かけたわけさ。え、どうせヒマなんだろうって? 風流と呼んでよ、風流と。あいにくこの季節、まだ梅の花は3分咲きじゃったが、けっこう花を求めて人出は多かったね。まあ、受験シーズンってこともあるだろうが、やはり日本人にとり早春の梅を愛で天神様を拝むことは、年中行事の一つなんじゃろうな。なんたって、相手は学問の神様じゃ。わしも神妙にお賽銭を上げ、頭がさらに良くなるようお祈りしてきたよ。
◆ところで天満宮は元々、菅公こと菅原道真公をお祭りした神社だってことは、キミも知ってるよね。平安時代、宇多天皇の厚い信任を受け右大臣から従二位に叙せられ、学問や政治に頂点をきわめた人じゃ。しかしその直後、藤原氏の讒言により大宰府に左遷された、悲劇の人でもあるんじゃね。この道真公が、とても梅の花を愛したお方じゃった。なに、梅干しを漬けるため? 変なツッコミを入れなさんな。「東風吹かば においおこせよ梅の花 あるじなしとて春なわすれそ」という歌を、キミ知らんかな。太宰府に下るとき道真公が、可愛がっていた梅と別れを惜しんで詠んだ歌じゃ。悲しい話だねェ。
ところが奇跡か神がかり、ある日この梅が京からはるばる後を追って、道真公の元に飛んできた。これが有名な「飛梅伝説」でな、今でも太宰府天満宮にはこのときの「飛梅」が、御神木として立派な花を咲かせておる。う〜む、エライ奴。まるで忠犬ハチ公みたいな梅じゃが、これ、天神様と梅との由来の一席というわけさ。
◆梅は東アジアに生育し、中国が原産地といわれるバラ科の植物じゃ。男性的に真っ直ぐ伸びた枝に、小さいが香り高く凛とした花を付けた姿は、やはりどこか東洋的な優美さを感じさせるね。日本に梅が伝わったのは奈良時代以前と言われ、中国から薬用の“烏梅(うばい)”として伝来したのだとか。これは青梅を薫製・乾燥したものでな、現在でも漢方薬の一つになっておる。何だか渋くて苦くて酸っぱそうだが、確かに体のどこかには効きそうな感じだね。一度、なめてみるかい?
梅(うめ)の語源にもいろいろな説がある。万葉集では「ウメ」、平安時代以降は「むめ」と呼ばれていたんじゃが、これは漢音の「mui」「mei」から転化したもの、あるいは「鳥梅」から転化したものとも言われておる。また、「熟む実」や「(う)つくしく(め)ずらしい」からきた、と言う説もあるな。梅は「万葉集」の中に118首も詠まれており、これは桜の約3倍にあたるんじゃ。古代では“花”と言えば桜ではなく、梅だったということがよく分かるね。
◆もう一つ、梅と聞いて必ず思い出すものに、梅干しがある。長期海外旅行をする日本人の、携帯必需食品といったらまずこれじゃ。なんたって梅干しは、ご飯のおかずや食欲亢進剤、おやつなどとして食欲を満たしてくれる他、あるときは薬としてお腹の調子を整えたりもする、万能選手のスーパー食品。明治時代には、全国的に流行したコレラや赤痢の予防・治療に用いられ、日清・日露戦争でも重要な軍糧として大活躍したんじゃ。現代でも、アルカリ性食品として疲労回復・殺菌効果・消化促進、それに老化防止(ヤッター)などの効用が高く評価されておるよ。また最近の研究では、梅肉エキスに含まれる「ムメフラール」という成分が、血液をサラサラにすることが発見され、注目を集めてもいるんじゃ。
こう見てくると梅は、花として愛でてよし、食品や薬として実を利用してもよし、古代から日本人の生活には欠かせない貴重な植物なんだね。春告草(はるつげぐさ)なんて、しゃれた別名もある梅が満開になるのは、これからの季節。キミもたまには菅原道真公に習い、梅の香を愛でてみてはどうじゃな。え、花粉症で鼻の塩梅がよくない? 塩漬けにするよ、ホントに。
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