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その64.ほのかな苦みは野性の証明(2002.2.26)
◆♪はぁるの小川はさらさら行くよ〜、か。わしが昔可愛い子供だった時分には、よくこんな歌を歌ったもんじゃが、近頃の日の光のまぶしさを見てると、なんだか実感として季節が伝わってくるね。それから、♪は〜るよ来い、は〜やく来い、なんて歌もあったし、♪はるが来た、はるが来た、どこに来た〜、なんてのもあったな。どれも春の到来を待ち望む歌じゃが、わしが昔可愛い子供だった時分には(しつこいかな?)、野原や小川のへりの雑草の芽吹きでそれと感じたものさ。ヨモギやナズナそれにセリ。モミジのような手でよく摘み取ったりしたが、今となってはあの頃の掌に付いた草の汁の匂いが、なんだか懐かしいね。
中でもセリは、田んぼの土手や小川の流れの中によく群生しておった。きれいな光沢のある黄緑色の葉っぱの群を見ると、そこだけ何か別の空気が流れているような気がして、目を見張ったもんじゃ。これ、独特の香りがあってな、たまにおひたしなんかで食卓に出ると、子供の頃は食べられなかったね。ああ勿体ない。いまは喜んでバリバリ食うんだけどなー、わし。
◆セリは低地の湿地に生える、高さ20〜40cmのセリ科の多年草じゃ。耐水性が非常に強く、水中で生育したセリと陸地のものはそれぞれ水ゼリと田ゼリに区別されるが、元は同じ種類。いまどき八百屋さんで売られているものはほとんど栽培品でな、
野草というよりも野菜と言った方がいいかも知れんな。しかし、野生のものも香りが強く、捨てがたい風味があるよ。
数年前に友人と車で房総半島に遊びに出かけたときのことじゃが、一緒に行った男は野ゼリが大好きでな、田舎道に差し掛かるとときどき車を止めては、土手や小川に生えたセリを探しておった。しかし、時期が早かったのか場所が悪いのか、なかなか目指すものは見つからずじまい。そうこうしているうちに、車は宿泊先のホテルに着いてしまった。で、降りようとして駐車場の脇を流れる汚いドブ川をふと見ると、な、なんとそこには青いセリの群がギッシリ…。いやー、あれには笑ったな。セリって結構、汚い水にも強いんだね。
◆味と香りの良いセリは、さっとゆがいておひたしやゴマ和えなどで食べるのがポピュラーじゃが、鍋に入れるのもまた良いんだよなあ。何と言ってもわしのお気に入りは、秋田のきりたんぽ鍋じゃ。北国らしい少し濃いめのだし汁に脂ののった鶏肉、それにきりたんぽとセリという取り合わせが、もう抜群。もっちゃり温かいきりたんぽと、シャリッとして香り高いセリのコンビは、いったい誰が考えたのと言いたくなるほど絶妙の美味さだね。体も温まるし食も進むし、言うこと無しだってば。
もう一つ、セリは薬としての効用もあるんじゃ。セリの茎を乾燥したものを、生薬で水芹(すいきん)と言う。水芹は適量を煎じ、食欲増進、解熱、神経痛、リューマチ、黄疸(おうだん)などの薬として服用するんじゃ。ただし、5月頃には猛毒のドクゼリが伸び始めるから、間違えて口にしないようキミも気を付けような。ああ、キミだよキミ。
◆「セリ、ナズナ、ゴギョウ、ハコベラ、ホトケノザ、スズナ、スズシロ、これぞ七草」と詠われる、春の七草の一つがセリ。ミツバやフキ、ワサビなどとともに日本の野草から野菜になった植物だが、野性の名残をほんの少し感じさせる苦みや香りが、やっぱり一番の魅力だね。それに、飼い慣らされた野菜にはない、歯触りの強さもまたほかには代え難い。
う〜ん、ここまで書いてきたらなんだかわしも、冷たくひやしたおひたしを食べたくなったわい。むろん、お酒のつまみにしてな。こうなったら明日あたり、春を探して近所の公園にでもセリ摘みに出かけるかな。なに、そんなところに生えてるはずがない? それじゃ、どこかで買って持ってくか。
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