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その68.不滅の呼び名、それは“鉄人”(2002.4.30)
◆いよいよ、一年中で一番さわやかな季節がやって来たね。新緑は目にまぶしく、鯉のぼりは大きな口を開けて空を泳いでおる。おまけにサッカーのW杯は目前に迫り、先日は久しぶりに二千円札を手にしたりしてさ、近頃はわし、もういても立ってもいられない心境じゃよ。
じゃがそんな中、残念なニュースがアメリカから飛び込んできた。“鉄人”ルー・テーズの訃報じゃ(享年86歳)。ルー・テーズといえば、わしらの世代には力道山との死闘がいまも熱く記憶に残る、20世紀最強のプロレスラーだね。体型はスマートじゃったが筋肉は強靱でな、必殺のバックドロップで力道山を始めジャイアント馬場やアントニオ猪木など、多くの日本人レスラーがマットに沈められた。中でも思い出すのは昭和43年1月3日、国際プロレスのエースとして売り出す予定のグレート草津を、一発のバックドロップで失神に追いやった試合じゃ。あれは強烈だったね。プロレスの怖さ、チャンピオンの底力を、存分に見せつけられた思いがしたっけ。“鉄人”とは、まさにこの人の代名詞だったなあ。
◆ルー・テーズが初来日したのは昭和32年10月じゃが、もう一人の“鉄人”が少年雑誌に登場したのは、その前年の31年7月のことだった。そう、横山光輝のマンガ「鉄人28号」じゃ。“鉄人”という呼び名は、マンガの方が早かったんだね。
ロボットものマンガの草分けとして、雑誌「少年」誌上で手塚治虫の「鉄腕アトム」と人気を二分した「鉄人」じゃったが、未来を舞台にしたヒューマノイドのアトムに対し、こちらはリモコン操縦の旧型ロボット。常に、操縦機を敵に奪われる危険性をはらんでいたな。おまけに舞台が現代だから、夜の街角に突然ガオーと現れそうなリアリティもあったね。わしは子供の頃、テレビの実写版「鉄人28号」を見たことがある。いまから思えばいかにもブリキ製で、中に人が入っているのが見え見えの噴飯もの28号じゃったが、暗い路地裏を歩くシーンは不思議な現実感があったのを覚えておるよ。怖かったね〜、光るあの目が。「鉄人」はその後アニメ化されて海外にも進出し、英語圏では「ジャイガンター」として勇名を馳せたらしいぞ。
◆一時忘れられかけた“鉄人”という呼び名を、近年、華やかに復活させてくれたのが「料理の鉄人」というテレビ番組。そう、和・仏・中の三鉄人がキッチンスタジアムに挑戦者を迎え、テーマ素材をどう料理するかを競う、一流シェフ同士の格闘番組だったね。これは面白かった。和の道場六三郎、フレンチの坂井宏行、中華の陳建一、どの鉄人も凄腕だったし、三人のキャラクターがそれぞれ際立っていて、料理人に対する世間の認識を一変させてくれたな。名だたる挑戦者を片っ端から退ける彼らは、まさに“鉄人”と呼ぶに相応しい存在じゃったよ。しかし、どうしてわしに試食の依頼が来なかったのかな〜。
他にも、プロ野球界では2215試合連続出場というとてつもない記録を残した、元広島の衣笠祥雄氏が“鉄人”の異名をとっておるし、ラグビーではかつて7連覇を成し遂げた新日鉄釜石フィフティーンが“北の鉄人”と呼ばれたね。現在ではJリーグ・鹿島アントラーズのディフェンダー、秋田選手なんか“鉄人”のイメージにぴったりじゃないかな。
◆近頃では「パソコンの鉄人」に「税金の鉄人」「ダイエットの鉄人」なんてのもいて、鉄人は様々な業界に存在するようになった。さしずめ、わしは「ストーブの鉄人」と言うわけさ。なに、「居眠りの鉄人」だろうって? 大きなお世話じゃ。
鉄人のイメージは、やはり究極の仕事人で徹底した職人肌、おまけに頑丈でタフなスーパーマンといったところかな。青白いエリートや理屈ばかりのインテリには、不似合いな呼び名じゃね。まあ、「出来る!」ってことをワザで実践してみせられる、その道のプロだけがそう呼ばれる資格があるってことさ。“鉄人”ルー・テーズは、まさにそれを体現したレスラーじゃった。ここは、合掌しつつ気持ちを新たにして、わしも“鉄人の道”を極めにゃいかんなあ。何はともあれ、まずは「へそで投げるバックドロップ」を練習するか。ウリャーーッ!
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