◆うぉ〜早いねえ。W杯の開幕がぐんぐん近付いてきて、日本中がサッカーの狂騒に包まれる日ももう間もなくじゃ。わが国でキャンプを張る外国チームも、続々と上陸してきたな。元々落ち着きのないわしなんじゃが、ここ最近はますます落ち着かなくて困る。先日のオスロでの日本対ノルウェー戦の中継放送なんか、わし、テレビの前で立ったり座ったりでな、とうとうギックリ腰になっちまったよ。なに、歳のせい? 誰だい、そんなこと言う奴は。
もっとも、あの試合は民放の独占中継だったんじゃが、大事な部分をカットしてCMタイムにしたのは頂けないね。そう、試合前の両チームの国歌演奏じゃよ。ボクシングのタイトルマッチもそうなんじゃが、戦いの前に国歌を聴く選手の顔を見てると、みんないい表情をしてるね。自分の名誉と国民の声援のために戦うゾ、という男達の顔は決意と緊張に満ちていて、見てる方も感動するよ。試合への期待感が盛り上がるんだよなあ。あれをカットしたら、仕切りのない相撲みたいでちょっと味気ないって〜の。
◆しかし、戦いの前に聴くのに一番相応しい国歌はと問われたら、わしはやっぱりフランス国歌「ラ・マルセイエーズ」を上げるな。なんたってこれは、美しくも勇ましい革命歌じゃ。「♪いざ祖国の子らよ、栄光の日は来た! 我らに向かって暴君の、血塗られた軍旗は揚げられた」なんて、恐ろしげな歌詞が続いておるところが、いかにも革命で共和制を勝ち取った国らしいね。
「カサブランカ」というモロッコを舞台にした古い映画の中の話じゃが、ハンフリー・ボガート扮する主人公の酒場で、客のドイツ将校がわが物顔に軍歌を歌うシーンがある。すると、ドイツ占領下のフランスから逃げてきた他の客達が、負けじと高らかに「ラ・マルセイエーズ」を歌う。やがてその歌は店中を覆い尽くし、ドイツ将校達はスゴスゴ退散するんじゃ。フランスの男達は誇りを取り戻し、女達は感きわまって泣き崩れる。感動的なシーンじゃが、もしこれが「君が代」や英国国歌「ゴッド・セイブ・ザ・クイーン」みたいに静かな歌だったら、寄り切ってドイツ軍の勝ちじゃよきっと。やっぱりフランス代表チームが強いのは、この国歌のせいかな?
◆今回のW杯の出場国には、他にも革命や戦いを国歌のテーマとしたところが多い。「♪弾丸降るいくさの庭に、頭上高く翻る堂々たる星条旗よ(アメリカ国歌)」、「♪友よ、立てよ、剣をとれ、イタリアめざめぬ。 命ささげん(イタリア国歌)」、「♪祖国のために前進、前進、前進、前進、よく戦わん(中国国歌)」なーんて、勇ましい歌ばかりじゃ。おまけにメロディも軍歌調で、兵士たちの士気を鼓舞するように作ってある。試合の前に選手や観衆が声をそろえて歌うには、ぴったりの歌なんじゃねどれも。
そこへ行くと、わが国の国歌「君が代」は優しい歌じゃな。これ、「古今和歌集」にあった“読み人知らず”の歌が平安中期頃から一般に広まり、中世、近世を通じて人々に親しまれてきたもの。明治時代に、この歌に雅楽の音階でメロディを付けたのが、いまの国歌「君が代」なのさ。どうりで優雅な曲調じゃろ。天皇の御代が永遠に続くようにという歌詞は、英国国歌と同じように古い歴史を誇る君主国家らしい穏やかなもの。ただし、優雅で美しい曲調はいいんじゃが、W杯みたいな戦いの場で歌うとき、どうも敵の勇ましさに押され気味じゃな。
◆他にも出場国の中にはいろんな国歌がある。1次リーグで日本と対戦するロシアは旧ソ連国歌の歌詞だけを変更したものだし、優勝候補の一角・スペインの国歌には歌詞がない。また、ドイツ国歌の作曲者はあのハイドンで、イタリア国歌の作曲者はベルディという超ビッグネームじゃ。それに中南米の雄・メキシコやウルグアイの国歌は、長いことで知られておるぞ。
こうしてみると、国歌とはその国の歴史や文化を反映した興味深いものじゃね。W杯に出場する国の選手やサポーター達は、きっといろんな思いを込めて試合場で歌うんじゃろうな。分かる、分かる。わしらも他国の国歌を尊重しながら、胸を張って「君が代」を歌いたいね。え、歌詞の意味がよく分からない…? キミねえ、レッドカード出すよホントに。
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