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その77.流氷ロマン 北の海の物語(2003.1.29)
うう〜寒いねえ。誰だい今年は暖冬、なんて言ったのは。これじゃストーブの灯油代がかさんで、困るよホント。なに、「ストーブの博物館」なんだからケチケチするな? そう言われてもなあ、なにせ館長が“経費節約”をお経みたいに唱えるもんだから。まあ、わしが館長なんだけどさ。
 しかしこの寒さの中、多摩川…じゃなかった帷子川のタマちゃんはどこに行ったのかな。夏の間、ずいぶん騒がれたもんじゃがね。アゴヒゲアザラシなんだから、北の海に帰ったのかい? え、まだあそこにいるようだ? へえ、よっぽどハマの雰囲気が気に入ったのかな。可愛いヤツじゃん。しかし、コンクリートに囲われた汚い日本の川にいるより、やっぱりアザラシは流氷の上が似合ってると思うんだけどなあ。

流氷といえば、今年はもうすでに北海道・網走に接岸したんだと。ちなみに接岸初日とは、“密接度7/10以上の流氷群が視界内海面のほぼ8割以上に接岸し、沿岸水路がなくなった最初の日”のことを言うらしい。なんたって8割以上だよ。小さな塊が1、2個海岸に流れ着いたくらいでは、接岸とは言わないんじゃね。これが徐々に海を埋め尽くし、やがて“氷の大陸”になるんだろうね。おお、北の海に広がる白い氷原が、目の前に広がるようじゃ。叫んでみたいな、「タマちゃ〜ん、カムバ〜ック!」。
 ところで、流氷が押し寄せるのは北海道でもオホーツク海側、すなわちサハリンと千島列島に挟まれた海に面する地域というのは、キミも知ってるよね。つまり、日本海や太平洋に面する地域では、海は凍らないというわけ。同じ北海道でそんな不公平な、と怒ってもしょうがないよ。キミは道産子かい? 実は、これにはちゃ〜んとした理由があるんじゃ。

ロシアと中国の国境を流れ、オホーツク海に注ぐアムール川を知ってるね。黒竜江とも呼ばれる世界有数の大河じゃ。実は流氷の誕生は、この川の水と大きな関係がある。なに、河口に大きな製氷工場があるんだろうって? あのな、アイスピックで頭を突き刺すよ、キミ。
 このアムール川の水はもちろん淡水じゃ。で、シベリアを流れてきた膨大な量の川の水は、そのままオホーツク海に流れ込むわな。ところが、塩分濃度の高い海水に比べて淡水は比重が軽い。そのためオホーツク海の海面近くは、低塩分の水の層で覆われる。そこに極寒のシベリアの風が吹きつけ、海の表面が凍るというわけさ。これが、結氷したアムール川から押し出された氷と合体して、南下しながら流氷群を形成するんじゃな。ところがオホーツク海は、サハリンやカムチャッカ半島や千島列島に囲まれた“閉じた海”。流氷の流れ着く先は、自然と北海道のオホーツク海側に限られるってことなのよ。分かってくれたかな、この壮大な物語を? 何だかわし、説明しただけで寒くなっちまったわい。

流氷というと、もう一つ思い出すのがあのクリオネ。体長2〜3cmの“小さな天使”を、キミも映像なんかで見たはずじゃ。優雅に泳ぐ姿は可愛らしいが、ああ見えて巻き貝の一種というから不思議じゃね。流氷の下には、このクリオネの他にもたくさんの生物がおる。もともとアムール川の水が凍った流氷には、植物プランクトンが豊富に含まれており、それを求めて動物プランクトンや魚介類などが集まってくるんじゃ。つまり、そこは漁業資源の宝庫でもあるわけさね。流氷というと荒涼としたイメージがあるが、じつはその下は“豊饒の海”だったっんじゃね〜。知らなかったろう? ああ、わしはウニと毛ガニが食いたい。

この流氷が緩み、やがてバラバラになって流れ出すのが、だいたい3月頃だという。長い冬眠から覚めた漁師さんたちが、いよいよ漁を再開するシーズンじゃね。これを「海明け」と呼ぶらしいが、何だか実感のある言葉の響きじゃないか。なんたって、海が明けるんだもんなあ。明けましておめでとうだね、ホント。
 溶けた流氷たちは南風に吹かれて波間を漂い、やがてオホーツクの彼方に消えて行くという。青い海が甦るんじゃ。こんなサイクルがもう何万年も繰り返されているというから、想像するだけでもスケールのでかい、ロマン溢れる“北国の春”じゃな。そう思わんかい。なに、今度カラオケで一度? キミなあ、わしの話を全然聞いてなかったんじゃないの?