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その78.タローの意見(2003.2.27)
晴れたある日のこと。世界村の原っぱに集まった少年たちが、ここを何のスポーツのグラウンドにするか話し合っていた。「ボクはサッカー場がいいと思う」。最初に口を開いたのはイギリス家のジョンだった。旧家の息子らしく上品で自信に満ちた口ぶりだ。「もちろん、ボクも賛成さ」。当然だといった顔で、フランス家のミシェルがみんなを見回した。「決まってるじゃないか、サッカーが一番だよ」。イタリア家のアンジェロやスペイン家のホセ、それにドイツ家のトーマスたちもそう言って口をとがらせた。
 彼らばかりではない。ブラジル家のアントニオもアルゼンチン家のディエゴも、そして貧しい格好をしたアフリカ地区やアジア地区の息子たちも、口を揃えてサッカー場を支持した。ボール1個あれば他には何の道具も要らないサッカーが、彼らは大好きだったのだ。気が付いてみれば、その場に居合わせた少年たちの9割以上が、ジョンの提案に賛成だった。

「ところで君の意見はどうなんだい?」。それまで黙っていた日本家のタローに一人がたずねた。金満家の息子だが、日頃から自分の意見をはっきり言わない少年だ。「ボ、ボクは…野球場がいいと思うんだけど」。口ごもりながらタローが答えた。「野球だってぇ?」。驚いたようにみんなが彼の顔を見た。世界村で野球は、やたらと道具が要るわりに退屈だという理由で、ひどく人気のないスポーツだったのだ。「ボクの家ではお父さんもお祖父さんも野球をやってたし、…それに、野球は世界村で一番のスポーツだっていつもボブが言ってるよ」。そこまで言うとタローは、助けを求めるようにアメリカ家のボブを見上げた。
 「ああ、そうさ」。プロレスラーのような胸を張って、ボブがニヤリと笑った。「ベースボールはうちの弟が得意だけど、すごいスポーツなんだぜ。サッカーなんて女の子のやるもんだ」。「女の子のスポーツだって?」。それを聞いてみんなが一斉に笑い出した。「だったら、一試合のうち半分の時間をベンチにすわってる野球は、お爺ちゃんのスポーツじゃないか」。

自尊心を傷つけられたボブは、ムッとしたように強くタローの腕をつかんだ。「行こうぜタロー。こんな原っぱでやるより、うちには広い牧場があるんだ。そこでうちの弟と、好きなだけベースボールをやればいいさ」。「ボ、ボクは別にサッカーでもいいんだけど…」。オロオロとみんなの顔色をうかがうタロー。それにはお構いなしにボブは、タローの腕を引いてさっさと歩き出した。そして最後にこう言った。「サッカーでもなんでも勝手にやるがいいさ。でもな言っておくが、オレんちで本当に人気があるのはアメリカンフットボールなんだ。だからこの世界村で一番のスポーツは、アメリカンフットボールだってことさ!」。
 な〜んて、わしの作ったちょっと長い小話じゃが、どうかな。いまの世界のスポーツ事情をよく表してるじゃろ。なに、スポーツだけの話とは思えない? そうなんだよな〜。一つはっきりしていることは、タローとボブは共に、どこかみんなの中で孤立しがちだということ。そろぞれ別の理由でな。

まあ、サッカーも野球もわしは両方好きなんじゃが、しかし最近気になることは、ヤンキースに入団した松井選手への日本マスコミの過熱報道じゃ。まだキャンプだってえのにこれは異常だよ。なんたって、いまや米メジャーリーグの日本代理店と化したNHKを筆頭に、民放テレビ各社も毎日、大事件のように取り上げる。新聞だって同じだよ。やれフリーバッティングだの、練習試合だの、そこまでやるかというほど騒ぎ立てる。これじゃ松井選手も大変だぁ。いったい日本から、どれだけの報道陣が押し掛けてるんじゃろうな? やだね〜、金魚のウンチは。公式戦が開幕して彼が実力を発揮するまで、みんなもう少し静かに見守ってやったらどうなんだい。なあ、そう思わんかねキミも。
 一方で、テレビのCMで露出が多いのは断然サッカー選手。書店でスポーツ雑誌のコーナーに行くと、これまたサッカー誌の方が断然多い。どうやらわが国では、テレビ・新聞を作る連中は野球派で、CMや雑誌の世界はサッカー派という図式があるらしい。ひょっとしてこれって、制作現場の責任者の年齢なんかとも関係あるのかな? オヤジVS若者なんてさ。いや〜、タローの心の中も複雑じゃね!