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その85.人類の長〜い歴史のたまもの(2003.10.8)
う〜、急に涼しくなっちまった。気が付けば、街を歩く人ももうみんな秋の装いじゃな。なんだかこうなると、Tシャツに半ズボン姿で気楽にやってた夏の時分が懐かしいね。なに、館長たる者がネクタイを締めなくていいのか? いや〜最近、脂肪が付いたせいか首が太く短くなっちまってさ、ネクタイなんかしたら苦しくてたまらんのよ。まあ、もう少し寒くなったら考えるからさ。
 だけど人間、この年になると太るのは簡単じゃが痩せるのは難しいね。減るいっぽうの館長職の給料のお陰でろくな物は食っとらんはずなのに、なぜか体重だけは右肩上がりってのが悲しいよ。若い頃は“歩くアポロ像”と言われるほどスマートで格好良かったわしが、いまじゃ“歩く布袋様”だもの。人間って変わるもんだよなあ。そういえばこの前、テレビに出てきた天地真理ちゃんの変わり果てた姿にもたまげたね。あの頃、天使のように可憐で美しかった白雪姫が、いやはや今じゃ歌う恐怖のブタゴリラ。わしの青春を返せ!と腹の底から叫びたくもなるわい。まったく、何てこったい。

しかし、中年過ぎると太り始めるのは、男も女も同じじゃね。まあこれ理屈は簡単でな、摂取エネルギーに比べ消費エネルギーが減った結果、余ったエネルギーが脂肪として貯蓄されたってこと。なんたって若い頃は新陳代謝が活発だから、いくら食ったってすぐに腹が減ったもんじゃ。ところが悲しいかな人間、年とともに基礎代謝が低下して行く。車で言えばガソリンを入れる量は変わらないのに、エンジンの働きが年々悪くなるってわけさ。残ったガソリンがどんどんラードになって貯まっていくんだもの、太るのは当然といえば当然だよなあ。
 思えばわしの若い頃、某国立博物館の調査事業で行ったモスクワの街の若い女性たちは、みんな目ん玉が飛び出るほど美しかった。幼い少女から20代の娘たちまで、どれもこれも例外なし。スマートで色白・碧眼の彼女たちが、本当に天使のように見えたもんじゃ。ところがこれがオバサンになると、これまた例外なしのオールビヤ樽になっちまうんだから不思議だったね。やっぱりみんな、せっせとラードを貯め込んだんだろうな。世界は一つ、人類みな兄弟ってやつじゃ。

もっとも、中年太りにも男女では差があるらしいよ。男に多いのがお腹に贅肉が付く内臓脂肪型(リンゴ型)、女性に多いのが下半身に贅肉が付く皮下脂肪型(洋ナシ型)なんじゃと。内臓脂肪は付きやすく落ちやすい脂肪でな、もともと外での肉体労働を担ってきた男性には、すぐに貯蔵・使用が出来るこの内臓脂肪の方が好都合だったというわけさ。それにひきかえ出産という大役を担った女性は、子宮を冷やさないよう保温機能の高い皮下脂肪を身につけたんじゃね。いわば内臓脂肪型が出し入れ自由な普通預金だとすれば、皮下脂肪型は貯め込むための定期預金みたいなもの。うまく出来とるなあ、男と女って。
 だけどそうは言っても、財産を貯め込むだけが生き甲斐の超ドケチ男がいるかと思えば、何でもパッパと買っちまう消費大好き女王様もいる。これってやっぱり、ままにならない自分の脂肪に対する反動なんじゃろうかの。知らないうちにストレス解消をしているのかも知れないね、男も女も。

え、何のために人間は脂肪を貯めるのかって? いい質問じゃねキミ。まあ、人類の最初の祖先が誕生してから約500万年が経つといわれるが、ヒトがようやく安定的に食料を確保できるようになったのは、約9000年〜8000年前のこと。麦の栽培や羊・豚などの飼育が始まってからと言われておる。つまりそれまでの長〜い間、人間は飢餓とたたかい、自然淘汰・適者生存という厳しい試練に晒されてきたんじゃ。その間、わずかな食料から得たエネルギーを効率よく使い、余った分はすべて脂肪として体内に蓄積する仕組みが出来上がったというわけさ。いってみれば、裕福な暮らしになってからも極貧時代の小銭を貯め込むクセが抜けない、成金親父みたいなものかなあ。思えば悲しい性(さが)じゃね。
 そんなわけでな、わしがこうして太って行くのも仕方のないことなのよ。文句があったら、ご先祖の原人様にでも言ってくれ。わしの体は人類の長い歴史が生んだ、精巧なメカニズムの結晶なんだからさ。なに、ご先祖様はもう少し運動をしていたはず? 分かっとるよ。だからときどきわしも、猫とプロレスをやったりして体を鍛えとるんじゃ。