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その92.ああ、ツバメは永遠に大空を飛ぶ(2004.5.10)
しかし、何だか寂しいねえ。え、わしの財布の中身の話かって? まあそれも当たりじゃが、近頃わしが寂しく感じるのは、東京ではもうあのツバメの姿がすっかり見られなくなったこと。わしが子供の頃、田舎では毎年春になるとツバメがやってきて、人家の軒先に必ずといっていいほど泥で作ったお椀型の巣をかけたもんじゃった。卵が孵りひなたちが大きな口をピーピー開けて育つのを、みんな楽しみにして見上げていたな。ツバメが巣をかけない家は、何だか不幸な家みたいな感じがあったもんね。そんな巣の材料となる泥が手に入らない現代の都会では、彼等も住みにくいんじゃろうな、きっと。ああ不幸だね〜、都会って。
 とまあ嘆いていたら、この3月に九州新幹線「つばめ」がスタートして、大盛況だというから嬉しいじゃないか。スマートな純白のボディには、飛翔するツバメのマークが描かれており、これが涙が出るほど格好いい。「つばめ」と平仮名で書かれた筆文字のロゴも、バッチリきまっておる。やっぱりいいよな〜、ツバメって鳥は。なに、泣くことはないだろうって? これが泣かずにいられるかい。

自慢じゃないがスポーツ通のわしは、野球ならヤクルトスワローズ、サッカーならサガン鳥栖のファン。なかでもスワローズは国鉄(現JR)時代から贔屓にしておるんよ。なんじゃキミ、国鉄スワローズを知らないの? 困るんだよね〜素人は、ホント。
 国鉄スワローズといえば、昭和25年に誕生したプロ野球の球団じゃ。スポンサーは、むろん国鉄。万年Bクラスの弱いチームじゃったが、エースの金田正一は日本一のピッチャーだったね。むろん、4番サードで背番号3といえば、徳武定之に決まっておった。そのユニホームの胸に描かれた“Swallows”というロゴと袖のツバメのマークが、子供の目にもスマートで馬鹿に格好良かったんじゃ。幼いわしの目と心にはそのときツバメへの憧れが強く焼き付けられ、お陰でいまでもJRバスの車体に描かれたでかいツバメを見るだけで、うう、涙が出てくるというわけさ。おまけに“Swallows”のロゴは、そのままのデザインで後身のヤクルトスワローズに受け継がれているから、もうわしにとってはたまらんわなあ。分かるじゃろ?

実は「スワローズ」という名前は、昭和25年の球団誕生時に東京〜大阪間を走っていた、特急「つばめ」からとったものなんじゃ。当時の「つばめ」は両駅を8時間で結ぶ最新鋭の特急でな、「つばめガール」という洒落た女性乗務員も乗っていて、いわば国鉄の花形列車だったわけさ。「つばめガール」なんて、「燕返し」の佐々木小次郎もビックリのネーミングだね。ちなみに、いまでも確かヤクルトスワローズの球団事務所には、当時の特急「つばめ」のヘッドマークが飾られているはずじゃよ。まあ、とにかくツバメという鳥は日本人にとり、スピードとスマートさを表すシンボルなんだね。
 思い出すのは昭和53年の、ヤクルトスワローズ初優勝のとき。セ・パ12球団のうち唯一、優勝経験のなかったスワローズがこの年、広岡監督のもと一致団結して初の栄冠を掴んだわけじゃが、このとき優勝を決めた神宮球場の一戦では、一塁側スタンドのヤクルト応援団に、懐かしの国鉄スワローズ応援旗が振られていたそうな。そこにはきっと、大きなツバメのマークが描いてあったんだろうね。その場にいられなかったのが、わしはいまでも残念じゃが、いたらきっとワンワン号泣していたと思うよ、ウン。

ツバメは、マレー半島やフィリピンなど東南アジアに住んでいて、春になると産卵・子育てをするため日本にやってくる渡り鳥。夏が終わり秋になるとまた南の国に帰る、寒がりの鳥なんじゃね。昔から日本人には馴染みが深く、虫などを捕食するため農家では益鳥として大事にしてきた。なんたって、子育てから巣立ちまで身近に見られるので、小学生の観察日記の定番にもなっておる。また、飛び方もスズメみたいにバタバタ羽ばたくのではなく、高速でスイスイと自由自在に滑空するため、まことにスマートで美しい。
 こんなツバメが東京で見られなくなったせいかどうか、近年のヤクルトスワローズは、むかしの国鉄時代みたいにまた弱くなっちまったな。例の金満チームにも連戦連敗じゃ。いかんいかん、ツバメを東京に呼び戻し、強いスワローズに復活してもらわにゃ面白くない。そのためにも都内にもっと自然を再生して、ツバメや人間が泥と触れあえる場所を作って欲しいもんじゃな。泥があればツバメの巣も復活するってわけさ。これ、いいアイディアじゃろう。わしの個人的な希望は、ついでに「つばめガール」も復活してくれんかな〜ってことだけどね、ミニスカートで。