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その97.「台風」はどこからやって来た?(2004.10.12)
もう言いたかないが、今年ほど台風の多い年も珍しいね。一難去ってまた一難じゃないけどさ、日本列島を蹂躙してやれやれやっとどこかへ行っちまったと思う矢先に、またすぐ次のが来るんだものなあ。おまけにどういうわけか、本土を襲うのは決まって週末。お陰で、Jリーグなどわしの好きなサッカーの試合は、しょっちゅう雨に祟られておる。巡り合わせと言ってしまえばそれまでじゃが、ちったあ台風も週間プログラムを考え直して欲しいもんじゃな。そうしないと仕舞いにゃ、サポーターに石投げられるよ。
 この「台風」という暴れ者、もとは北西太平洋上に発達した熱帯低気圧で、中心付近の最大風速が毎秒17.2m以上になったものをこう呼ぶわけ。英語では「タイフーン」。ちなみに、インド洋方面で発生するのが「サイクロン」で、西大西洋のカリブ海・メキシコ湾生まれなのが「ハリケーン」というわけじゃな。同じ熱帯低気圧でも、所変われば名も変わるってこと。なに、グリコの「ポッキー」もヨーロッパでは「ミカド」になります? ちょっと違うんじゃないかい。でも、それってホント?

ところで、「台風」と「タイフーン」はよく似た言葉じゃね。わしが子供の頃読んだマンガに小沢さとるの「少年台風」てえのがあったが、この「台風」には(タイフーン)というフリガナが振ってあったのを覚えておるよ。「少年タイフーン」──何となく格好いい響きだったな。お陰で子供の頃からわしは、「タイフーン」という英語を知っておった。だから町に一軒しかない模型屋で、第二次世界大戦のイギリスの戦闘機「ホーカー・タイフーン」のプラモを見つけたときも、どこか胸にときめくものがあったね。
 むろん、二つ言葉の類似は偶然じゃない。え、「台風」を英語風に訛ったものが「タイフーン」だろうって? 普通はそう考えるわな。むかし中華料理屋で一緒に酒を飲んだカナダ人の青年も、そんなことを言うておった。じゃが、話はそう簡単でもないらしいよ。実は「台風」の語源には諸説があるんじゃ。

一般的には英語の「タイフーン(typhoon)」に、明治時代「颱風(たいふう)」という字を当てて使ったのが始まりとされ、それが戦後になって当用漢字で「台風」と書くようになったらしい。残念ながら、英語が先だったってわけじゃね。つまり「台風」は、近代以降になって生まれた言葉。それまでのわが国では、「野分(のわき)」という名前で呼んでおったというから、風流じゃないか。「芭蕉野分して 盥(たらい)に雨を 聞く夜かな」なんて、松尾芭蕉の俳句は有名だね。ああ、ポッチャンポッチャン。
 では「タイフーン」はどこから来た言葉かというと、これがまたけっこう悩ましい。一説によると、台湾や中国福建省でいう「大風(タイフーン)」が音写され、英語になったんだというから、こうなるとまるで言葉のブーメラン現象だね。また別の説では、アラブの船乗りたちが呼んだ、ぐるぐる回る意味の「トゥファン(tufan)」が語源だというな。そして驚くなかれ、ギリシャ神話に出てくる怪物がその由来だという説もあるぞ。ためしに、うちにある呉茂一先生著「ギリシア神話」を捲ってみると、確かに怪物「テューポーン(Typon)」というのが登場し、その巻き起こす暴風の名が「Typhoon」だと書いてあるな。なるほど、そういうことだったのかい。何だかどれももっともらしくて、いちいち頷けるなあ。でも、本当のところどれが真説なのかは、頭の中がぐるぐる回ってわしには分からんよ。

でもまあ、「タイフーン」を「台風」に言い換えるところなんぞは、なかなかクリーンヒットの当て字と言えそうだね。いかにも台湾辺りからやって来た、暴風って感じがするもんな。なんたって漢字には造語能力があるんじゃ。二つの文字を組み合わせれば、いろんな言葉がどんどん造れる。こうした外来の気象用語なんかにはピタリとはまった漢字を当てると、また日本的な季節感や情緒が加わって理解も深まるんじゃないのかな。例えば、他のヒット作では「フェーン現象」の当て字で「風炎現象」てのがあるが、これなんかまさに“言い得て妙”という感じだしね。
 ついでにわしからの提案じゃが、例の自動気象観測システム「アメダス」な、あれは明日から「雨だす」にしてはどうかな。少なくとも、関西地方では受けると思うんじゃがね。なに、晴れた日に「雨だす」ではおかしい? じゃあ、そのときは「晴だんべ」で行こうか。北関東では、きっと人気が出るよ。