「行火」と書いて「あんか」と読みます。他にも「行灯(あんどん)」「行脚(あんぎゃ)」など、「行」を「あん」と読む熟語はいくつかありますね。「行」とは旅をしたり持ち運んだりする意味。だから、炭火を入れて手足を暖める可動式の道具が「行火」なんです。「行火」は正しくは「行火炉」の略語です。
 行火は、瓦製の火入れをやきものや石・木製の覆箱の中に入れ、直接手足を当てて暖める暖身器具で、「足あぶり」などとも呼ばれました。置き炬燵の一種と言えますが主に一人用で、小型で火持ちの良いことから、湯たんぽと同じように布団の中に入れ、寝るときの暖房としてよく用いられました。昔から寒がりのお年寄りには、冬の必需品だったのでしょう。燃料は炬燵と同じ木炭や炭団(たどん)が主で、後に豆炭(まめたん)などが使われるようになりました。最近では電気行火も登場していますね。
寝床で身体を暖めるもう一つの道具として、湯たんぽがあります。「たんぽ」と言う名前は「湯婆」の唐音から来たという説があります。熱源が手軽に手に入るお湯なので、古くから簡便な暖身法として人気がありました。元禄年間(1688〜1704)には、すでに使われていたのだとか。
 かつては陶製のものが主流でしたが、昭和初期頃から金属製のものが出回りました。金属製は軽くて丈夫で熱に強い反面、錆や冷めやすい・火傷をしやすいなどの欠点もあります。表面のあの波形の凹凸は熱の吸収・放射をよくするとともに、熱による膨張・収縮に備えるためのもの。陶器製は熱に強い点では金属製と同じで、冷めにくい・錆びないなどの利点もありますが、割れ易いことと重いことが難点。他にゴム製やプラスチック製のものもあります。湯たんぽは、湯が冷めるまで緩やかに熱を放射するという長所がある反面、温度の調節ができないのが不便です。
行火をさらに小型化し、懐中に入れたまま持ち運べるようにしたものが懐炉(かいろ)です。お腹や腰に当てて体を温めるので、寒い日の外出には好都合な暖身具でしょう。また医療法の一種として患部を暖め、腹痛・神経痛などの緩和にも利用されました。
 古くは焼石や温石などが使われましたが、元禄時代の初め頃、保温力の強いイヌタデやナスの茎などの灰(懐炉灰)に点火し、金属性の容器に密閉して燃焼させる懐炉が発明されました。近代になると、桐灰・麻殻灰・ゴマ殻灰・わら灰・ヨモギ灰などに助燃剤を加え紙袋に詰めた懐炉灰や、また、これを練り固めた固形のものが登場。大正時代の末には、気化した揮発油を白金の触媒作用で徐々に酸化発熱させる、ハイテクの白金懐炉も発明されました。最近では、鉄粉と食塩水・活性炭などを袋の中で混ぜ合わせ発生する酸化熱を利用した、使い捨て懐炉がポピュラーですね。