近年、私たちの生活から姿を消してきた火鉢ですが、その歴史は古く、奈良時代には置炉の一種である火鉢が登場しています。平安時代に書かれた清少納言の枕草子には、「春はあけぼの」で有名な第一段に、「冬はつとめて。雪の降りたるは言ふべきにもあらず、霜のいと白きも、またさらでも、いと寒きに、火など急ぎおこして、炭持て渡るも、いとつきづきし。昼になりて、ぬるくゆるびもていけば、火桶の火も白き灰がちになりてわろし」と言う一節があります。冬の早朝に炭火をおこして運ぶ人々の様を描写したものですが、ここで言う火桶とは木製の火鉢のこと。
 昼になり寒気が緩むと火鉢の火も白い灰になり美しくない、と彼女は言っているわけです。きりりとした冷気に真っ赤におきた炭火が、きっと彼女の冬のイメージだったのでしょう。それにしても、清少納言は寒さに強い、早起きの好きな女性ですね。
江戸時代から戦前頃にかけて、火鉢はインテリアの置物として、魅力的な形を備えたものが数多く作られました。材質も多様化し大きくは、けやき・桜などの木によって作られた箱火鉢や長火鉢、くりぬき火鉢・唐金(からかね)と呼ばれる黄銅製の金火鉢、そして焼き物の瀬戸火鉢の3つに分けられます。調度品として価値のある物は、現在でも根強い人気を持っています。そういえば、時代劇でおなじみの銭形平次親分の愛用は、年季の入った長火鉢でしたね。
 火鉢の必需品には、火箸、五徳、鉄瓶などがあります。お餅を焼く場合は金網も必要ですね。それに、煙草好きの方には煙草盆も。火鉢の魅力は暖を取るだけではなく、何と言っても部屋を引き立て、そこでお茶を飲んだり食べ物を暖めたり、と言った副次的な要素が大きいようです。
囲炉裏の火に比べ火鉢が優っている点は、煙の出ない炭火を使用するところ。きれいな座敷や店先でもこれならノープロブレム。おまけに炭火には遠赤外線効果があるので、小さな火でも意外に体の芯まで温まります。
 炭はかつて石油やガスが登場するまで、家庭の大切な燃料として重宝されていました。戦後、炭の生産量のピークは昭和32年(1957年)で、約222万トン。それが昭和51年(1976年)には、約3万7000トンまで減少してしまいます。しかし、近年は専門料理店やアウトドアでの使用が増え、再評価の声が高まりつつあります。炭火の良さが、もう一度見直されて来たわけですね。
 煙や遠赤外線以外にも、燃焼時間が長い、火力が安定している、温度を調整しやすい、など炭火の長所は少なくありません。これは「炭焼き」という手の掛かる労働を経て、木を木炭と言う良質の燃料に変えているからです。製炭された最古の炭は、約30万年前のものが発見されているとか。人類と炭の付き合いは、気の遠くなるほど長いんですね。