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「うわーっ、熱いっ」
黒い胴体が不意に割れ、吹き出した真っ赤な炎が松市の左腕を包んだのは、大正3年の10月のある夜。試作したストーブの燃焼テスト中のことでした。さいわい周りの者がすぐに火を消し止め、火災には至らなかったものの、腕の火傷は重傷でした。病院にかつぎ込まれた松市は、それから長く苦しい入院生活を余儀なくされます。
「ちくしょう、ついてねえ」
黙々と看病する妻のナオの前で、ある日松市は思わずそう弱音を吐きました。しかしそのとき、彼女は首を振りながらこう言ったのです。
「これがストーブを買って下さったお客様じゃなくて、良かったじゃないの。あなたの左腕が、身代わりになったと思えばいいのよ」
微笑む妻の顔を見つめながら、松市は目が覚める思いでした。そうだ、これは質のいい鋳物を造れと言う戒めなんだ。そう自分に言い聞かせた松市は、傷が癒えた後もケロイドになった左腕を見る度に、製品作りへの心構えを固く誓うのでした。 |
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