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グォーッという地鳴りとともに関東一円を巨大な地震が襲ったのは、大正12年9月1日午前11時58分のことでした。世に言う関東大震災です。
昼食の準備の時刻という不幸も重なり、各地から上がった火の手は折りからの烈風にあおられ、東京の7割を焼き尽くす大火となりました。
入谷にあった佐藤商店の建物もたちまち炎に包まれ、家財道具や店の商品を運び出す間もなく、松市は息子の謙吉や奉公人を連れて、上野の山に逃げるのが精一杯。悲惨だったのは妻のナオと娘のケサで、二人はこの日、本所の実家に出かけたまま、永遠に帰ることはなかったのです。遺骸が見つかったのは、多くの焼死者を出した被服廠跡の広場。わずかに焼け残った着物の柄が、二人の確認の決め手となりました。
「ナオや、ケサや、帰って来てくれ」
愛する妻と娘を亡くし、店も家財道具も失った松市は、悲嘆にくれました。焼け跡を片付ける気力もなく、謙吉を抱きしめたまま茫然と立つばかりだった、と後に彼自身がそう語ったものでした。 |
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